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銀盤カレイドスコープvol.1
ショート・プログラム:Road to dream
海原 零 イラスト/鈴平ひろ
定価600円(税込)
史上最凶のヒロイン現る
大賞受賞作!!
フィギュアスケーター桜野タズサ、16歳。美貌と素質に恵まれながらも、高飛車な性格のせいで周囲に嫌われている。試合でも実力を出しきれず、五輪代表切符が遠ざかっていたある日、よりによって『幽霊』に取り憑かれ!? 第2回スーパーダッシュ小説新人賞大賞受賞作!
〈やっぱ、相当な美人だな、君って〉
思わず顔が緩みかけ……、慌てて鏡から目を逸らす。煽てられるのは、白雪姫の役柄じゃない。
「私に媚売っても無駄だから」
〈そうじゃないって。本気だよ〉
……欧米の男ってこれだから。けど、ま。『幽霊』ピートの台詞がリップサービスでないことは確かだ。
「ついでに、その美人をケダモノ幽霊の視線から守るためのアイデアを、頂けないかしら」
〈……タオルで、目隠しでもすれば?〉
……タオルで、完全に視界を封じ。慎重に、制服を脱ぎにかかる。上衣に続き、スカートのホックも外して、下着だけになった。ヒンヤリ感も手伝い、妙に頼りない。何がって、そりゃ……。
ああもォっ、最低! 端から見れば、100パーセント変質者だろう。想像するだけで泣けてくるわ。
銀盤カレイドスコープvol.2
フリー・プログラム:Winner takes all?
海原 零 イラスト/鈴平ひろ
定価600円(税込)
その減らず口、オリンピック級! 第二弾☆
圧倒的な逆風の下、100億ドルの美貌を自称する減らず口タズサの戦いは、ついに佳境に。『桜野革命』発動後、ある時は超プリティなウエイトレス。またある時は?幽霊・ピートの後押しで、銀盤に吹け、タズサ旋風!! その行く手に、感動のクライマックスが……!!(多分)
私、なんでこんな所に居るんだろう。なんで、こんなことになってるんだろう。不意に、涙がこみ上げ……、そして記者団が、最後の一線を踏み越えた。
私は己の暴走開始を、はっきりと自覚していた。そしてそれが何を意味するかも――
「いい加減にしろ! てめえっ!」
50代半ばの色黒の記者が、猛然と立ち上がった。
「おい桜野! 何様だか知らねえが、やりたいことやって、言いたいことを言う。それで済むほど、世の中甘くねえんだよっ!」
「貴方の体験談なんか、誰も聞いてませんよ。第一それは、ご自分の無能が原因でしょうに」
「……何だと」
前代未聞の乱闘劇をも覚悟したが、舌鋒を収める気は毛頭ない。
「そもそも、お宅の小指程度の物差しで、この私を測ろうだなんて。ウン十年生きてても、身のほど1つ、お分りでないのね」
……会見場が、凍り付いた。
銀盤カレイドスコープvol.3
ペア・プログラム:So shy too-too princess
海原 零 イラスト/鈴平ひろ
定価620円(税込)
あのタズサが、ペア転向!? 待望の第3弾!!
今やフィギュアスケート界のスーパースター・桜野タズサ。その孤高のプリンセスが、1シーズンに限り、ペアに転向することに!! 理由はさておき(気まぐれとでも思っててちょうだい・本人談)ペアくらい、この私にかかれば、とタカをくくっていたタズサだったが……?
「怖いんだから仕方ないでしょ! アンタが頼りないのがいけないのよっ!」
……黒真珠が凍る。また、大変なことを言ってしまった。
女子が怖がるのは、男子の安定感の欠如である場合が結構多い。だがそれはあくまで統計上の問題。桜野・ブラックパール組の場合、悪いのは私だ。オスカーは決して、非力でも不安定でもない。
……彼はいつものように私から視線を逸らせ、あらぬ方を向いて一息。そして冷静に……、は、ならなかった。
「俺がそんなに信用できねえのかよっ!」
……詰まった。激流が凍り付いたかの如く、ピタリと固まった。
「シャナハン! もうゴメンだ! 金輪際ゴメンだ! こんな女と組めるかっ!」
胸に特大の楔が、打ち込まれた感じ。……ついに言われてしまった。
止めに入るシャナハンにも構わず、黒真珠は私に固定。
「もう止めだ。お前とのペアは解消、とっととシングルに戻れ。じゃあな」
リンクから上がると、ブレードにエッジエースもつけずにとっとと歩き去るオスカーだったが、ふと立ち止まり……。
「ついでに一生シングルでいろ! このクソ女!」
……私は呆然と、立ち尽くすしかなかった。
桜野・ブラックパール組は消滅した。
銀盤カレイドスコープvol.4
リトル・プログラム:Big sister but sister
海原 零 イラスト/鈴平ひろ
定価560円(税込)
“偉大なるバカ姉貴”に、愛をこめて。
桜野ヨーコ・12歳。ノービスクラスのフィギュアスケーター。ある意味偉大な姉・タズサと、常に比較される居心地の悪さにも慣れていたが、耐え難いのは――一度も表彰台の頂点に立ったことがない、という事実だった! 未曾有の美姉妹による麗しき姉妹愛の奇跡を描く、待望の第四弾!!
左足のアウトでバック、右足のトゥを氷に突き刺し、離――
「しまっ……」
短い叫びが終わった時には、もう着氷していた。予定の3回転が、1回しか回れずに。
上に跳び上がる前に回転を始めてしまったのだ。成功時に余裕がない選手が、よくするミス。わたしもその1人だったりする。だがそれゆえ、ここでの躓きは計算の内だった。
ミスは取り返せばいい。姉貴のように。
次のトリプルフリップをコンボで。瞬時にそう判断を下したわたしは、リンクの対辺めがけて真っ直ぐ滑っていく。
しっかり溜めてターン、そしてトリプルフリップ。
今度はちゃんと体が上に。あとは3回転して着氷……、
――できなかった。空中で軸が乱れたがゆえの、派手な転倒。腰と臀部に、零下の冷たさと痛みが走る。
すぐに体勢を立て直し――
「え?」
前のめりに躓き……両膝と両掌が氷面を撫でた。
銀盤カレイドスコープvol.5
ルーキー・プログラム:Candy candy all my rules
海原 零 イラスト/鈴平ひろ
本体560円+税
アニメ化決定で絶好調! 最新刊をGETセヨ!
今や世界的フィギュアスケーターとなった桜野タズサ。彼女が京都を観光中、一人の外国人少女が声を掛けてきた。少女の名はキャンドル・アカデミア、最近イギリスで注目を集めているアイドルスケーターだ。親しみを覚えたタズサはキャンドルを高嶋邸に招くが……?
「……なあ、あの子」
「あっ、フィギュアスケートの……」
真後ろを通過する2人組のおばさんの声に、意識が引き戻された。
プライベートの旅行だし、基本的に騒がれるのは好きでない。だが、幾ら黒いコートとキャップで武装しても私の輝きは抑え切れないのか。
「ほんま、あの子やわあ」
本人が間近にいるというのに、随分と大きな声だこと。
「美人やなあ」
……まあ、声くらい大きくてもいいか。
「名前、なんていったっけ」
「たしか、アイドル…」
あいどる?
「違った。キャンドルやわ」
え? 私は咄嗟に右横に目を移し――
こちらに歩いてくる彼女を見つけた。
彼女も見つけた。この私を。
※初版ではP92のシーンの挿絵がP82に入っています。重版で修正します。
銀盤カレイドスコープvol.6
ダブル・プログラム:A long, wrong time ago
海原 零 イラスト/鈴平ひろ
定価660円(税込)
ニューヨークに世界のビッグネーム総結集。
オリンピック――その輝かしい舞台に人一倍強い思いを抱く2人のアイシーセレブ、至藤響子とドミニク・ミラー。かたや生来の強制により、かたや幸運な出会いにより、氷の住人となった2人の友情と宿命、そして彼女たちに立ち塞がるライバル、桜野タズサの影……。
「5……、4……、3……、2……、1……、GO!」
手をかけた引き戸を反対側へと叩き付ける。
「御用改めである――っ!」
ゴリラは部屋の中央でガリ勉と話していた。その手に握っているのは――
「てめっ…」
「だ――っ!!」
叫んだ時にはもう、渾身、会心の一撃がゴリラの顔面を捉えていた。ビール缶の中身が派手に飛び散る。
「みんなぁっ!! 遠慮なくブン殴れ――っ!!」
こんな言葉を発する自分が信じられなかった。信じられないくらい気持ちよかった。
約25畳の部屋は、一瞬にして修羅場と化していた。
たかが枕されど枕。そば殻の詰まった枕での一撃は相当に効くはず。先制の一撃に深刻なダメージを受けたゴリラは、志保と悠の駄目押しの連撃に頭を抱えている。10歳程度ならまだ、男女の体力差はそれほどでもない。その辺り、スケートを通じてよくわかっていたのだ。
銀盤カレイドスコープvol.7
リリカル・プログラム:Be in love with your miracle
海原 零 イラスト/鈴平ひろ
定価680円(税込)
満を持して。桜野タズサ伝説の章、ここに始動。
バンクーバー五輪を見据え、単身ロシアに乗り込んだプリンセスワンダーこと桜野タズサ。ガブリーとの秘密の約束を糧に、狙うは世界の頂点だけ。ところが、新たに組んだ有名コーチが予想外の困りモノ。陰湿だわ横暴だわ無理難題押しつけるわ。この私を誰だと思ってるの?
「そうそう。今日初めて、聖堂で賛美歌を歌ってきたんだけど」
ソファーでくつろぐ私にヨーコの顔が近づき――
「タズサ、よく4年間もあそこで生きてられたね」
「なに? もう嫌気が差したの?」
「と〜んでもない」
声を鼻にかけたヨーコはフロアでくるりと1回転、翻ったスカートを押さえる。
「わたしには心地よかったよ。ああいう静かで厳粛な雰囲気、好きだしね」
「それはそれは」
「でもタズサなんて、あそこに一歩足を踏み入れた途端に焦げちゃいそうじゃん。ジュウウウウゥゥゥッッッ……、って」
……このガキ。
劣勢を挽回すべく頭を回転させるも、再びヨーコが先んじる。
「でもあそこって、タズサの落ち着き先としては適当だよね」
「……どういうことよ?」
「シスター業」
「私がシスター?」
語尾を上げ、ここぞとばかりに鼻を鳴らした私に、妹は平然と――
「一生男と縁がなくても立派な言い訳ができるし。せっかくだから、ガブリーに聖女の称号譲ってもらったら?」
「……アンタって子は……」
銀盤カレイドスコープvol.8
コズミック・プログラム:Big time again!
海原 零 イラスト/鈴平ひろ
定価660円(税込)
私はリアのシモベじゃない。
女帝リアの男子シングル転向の決断、そしてガブリーとのあの電話。募った思いは、リアへの勝利宣言となって噴出。退路を断った私にマイヤも本気モード、今以上の練習をさせる気らしいけど、上等じゃないの。ところがロシアに戻った私を待っていたのは思わぬ報せで……。
「……リア?」
――ではなかった。
今度は明らかに、視覚的な違和感。
リアの瞳の奥に……僅かな、しかし劇的な変化が――
「タズサ……」
――慄然。
彼女の囁きに、突如として私は混沌に放り込まれた。その場をなんら動かずして。
私といてもほとんど色を変えない大きな碧眼、そこに見たことのない色が。水晶体のごく一部に、明白な赤が生じていた。
「あ……あの……」
何かを言わなければならないのに、言語中枢が無秩序な渦に呑み込まれ言葉が出てこない。わかっているのは、私の息を一瞬止めたのが、碧き炎――リアの眼光であったこと。
銀盤カレイドスコープvol.9
シンデレラ・プログラム:Say it ain't so
海原 零 イラスト/鈴平ひろ
定価680円(税込)
だから倒すわ。命懸けで――
思えば色んなことあったわよね。5年連続ミス・ユニバース獲得、永世美少女の称号も手に入れたし、生身の人間としては初の世界遺産登録。あ、そんな過去の栄光はひとまず置いといて。リアを打倒し背負った全てに答を出すため、私は4年に1度の大舞台に臨む。
今夜のあの女は……。
「……やる気ね」
着氷の力強さ。そこからも隙はなく、上体を存分に使ったバックステップで美しく紡がれるピアノを捉える。
そのトレースと躍動感を見れば、疑う余地はなかった。ドミニク自身が先月の全米選手権で初挑戦し失敗している大技、トリプルアクセルへの軌跡――意欲を。
バッククロスで流れ、半身に移って……、
――踏み切る。
安定した空中姿勢と高さに、私の本能がフィニッシュのポーズを観て――
「……っ!」
――半瞬後、タイムラグが消滅した。
完璧な成功によって。
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