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ポイポイポイ
桑島由一
定価680円(税込)
金魚一匹すくえないやつに、女がすくえるか!
青春ハートフル金魚すくいストーリー!
中学3年生の徳永寅次は、金魚と父親が嫌いだった──。幼馴染の桜、ミイ、後輩のあかりたちと、とりとめのない毎日を過ごす寅次は、ある日自分がこの夏限りの命だと知る。実感を持てないまま事実を受け入れる寅次だったが、桜に親が決めた許婚がいることを知った時、桜の自由を取り戻すため金魚すくいで彼女の結婚相手に戦いを挑むことを決意した。寅次は、ポイを手にする!
「ちょっと寅、今、なんか爆発したんですけど!?」
「してない。今のは夢だ、夏の夢だ、幻だ!」
「そんなこと言っても、どかーんて音が!」
「いいからいいから!」
 必死に走ったせいか、汗と一緒にやたら鼻水が出てくる。なんだよこれ汚ねえなあと思ってよく見ると、Tシャツが真っ赤に染まっていた。
「あれ? 血?」
 俺は二人の手を離し、鼻の周りを拭いた。絵の具をこぼしたように、指先が真っ赤に染まる。鼻血は止まる気配もなく、スルスルと水みたいにして流れ続けた。
「きゃっ! ちょっと寅! 鼻血出てるじゃない!」
 わかってるよ。大丈夫、のぼせただけだ。
 桜にそう返事をしようと思った。でもできなかった。血の気が引き、俺は身体のバランスを崩してしまったのだ。ただの一秒も、その場に立っていることができなかった。
 無防備な体勢で地面に倒れ込むと、地面が大きく水のように波打った。

※ ※ ※

「女一人すくえないやつに、男でいる資格なんてないんだ……」
「ほほう……」
 デメキンは目を細め、少し驚いたような表情をした。
 恐ろしいほどにゆっくりとした動きだったけど、確実に俺のポイは未来に向かって前進を始めた。メデューサの呪いが徐々にとけ、石の身体から人間に戻る古代の戦士のように。
「俺は桜をすくいたいんだ」
 奥歯を噛み締め、ポイに意識を集中させる。今まで見えていた景色が真っ黒に塗りつぶされ、世界は俺とポイだけの二人だけのものになった。
 ここから抜け出せば、きっと俺はどこかに辿り着ける。そんな確信があった。
「金魚一匹すくえないやつに、女がすくえるか!!」
 全身全霊を込めると、ポイが身体の中に吸い込まれるのがわかった。
 俺は、ポイと一体化したのだ。
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(C)桑島由一/集英社

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