集英社ライトノベル新人賞
第12回(2022年)
IP小説部門 #3
最終選考結果発表!

(2023.11.17)

2023年4月26日~2023年8月25日応募分
応募総数212作品

たくさんのご応募、ありがとうございました。

最終選考 審査員 新木伸 先生
厳正なる審査の結果、2作品の入選が決まりました。
最終選考作品の寸評と総評を掲載いたします。

なお、選考に関するお問い合わせには一切お答えできませんので、ご了承下さい。

最終選考 入選[2作品] 正賞の楯+副賞10万円 『道化の無双は笑えない』一ノ瀬 乃一 『東京Lv99』節兌見一

新木伸 先生 総評

IP小説部門は、見開き20枚。文庫換算にして40ページという分量がレギュレーションである。
(※注:新木は前回の総評で文庫20ページ分と書いたが、誤りだった)

さて、ここで唐突だが、自分の作品が「アニメ化」されたときのことを考えてみよう。
ラノベの一冊は、平均的に、アニメの3話となる。つまり40ページという分量は、アニメでいうと、ちょうど前半「Aパート」の長さにあたる。アバンがあってOPが終わって、本編がはじまり、CMまでの10分少々。前半部分。
この尺のなかで、きちんと「面白く」なければ、それは、ダメである。きちんと終わりまで観るだろうか? 来週も観るか? 一話切り確定に違いない。皆、そうやって切り捨てているはず。

もしくは、自分の作品が「コミカライズ」されたときのことを考えてみよう。
連載初回増量の40ページぐらい。新連載の第1話目。その1話目で「面白くなかった」なら、2話目、読みたいと思うだろうか?
これはそうした話。IP部門で測っているのは、じつは、そういうコト。

さて、「面白い」とはなにか?
ここで簡潔に定義する。「面白い」とは、つまり、以下の5項目が、すべて不足なく存在していることをいう。

1.どんなヤツか、わかる。
2.どんな世界か、わかる。
3.どんなことをしたいのか、わかる。
4.どんな味方がいて、どんな敵(障害)が立ち塞がるのか、わかる。
5.どんな話か、今後の展開が、わかる。

「わかる」が5回。5個の「わかる」が必要。
「わかる」は面白い。「わからない」は面白くない。ただそれだけの簡単なコトでしかない。

今回の選考対象となった3つの作品では、5要素すべてを備えていたのは1作品だった。残りの2作品は一つずつを落としていて、4要素があるのみ。
総合的に鑑みて、2つの作品を受賞にあげた。

『道化の無双は笑えない』は、どんなヤツ(ら)が、どんな世界で、どんなことをしたいと思っていて、どんな敵が立ち塞がり、これからどんな話になっていくのか。ぜんぶ「わかる」。つまり「面白い」。よって入賞。

『東京Lv99』は、5つの「わかる」のうち、「今後の展開」の一つが欠けていた。ほかにもいくつかの欠点はあった。ただし、基本アイデアの「帰還勇者vs魔法少女」――混ぜたらキケンな別業種の異能者による異種格闘技戦が光っており、アイデアのポテンシャルと発展性とを評価して、こちらも入賞となった。

『あの娘の彼女になるために』は、キャラが不在。ラブコメなのに、主人公とヒロインが双方ともに「普通」であった。「どんなヤツ」が欠けていた。

次回の応募者には、ぜひ、5つの「わかる」が入っているか、セルフチェックをしてほしい。5つの「わかる」が入っているだけで、選考の突破率が10倍ぐらい違ってくるから。いやマジで。

最終選考[3作品] 審査員寸評

作品タイトル ペンネーム
道化の無双は笑えない 一ノ瀬 乃一

新木伸 先生 寸評

魔術学院の期待の新星、パーフェクトビューティの公爵令嬢である主人公には、悩みがあった。口から出る言葉がすべて罵倒になる呪いにかかっているのだ。そんな彼女が戦闘実習でペアを組まされた相手は、学園一のうつけ者と名高い情けない男だった。
二人は実習中に魔族に襲われる。魔王の配下という強敵を前に、主人公は戦い、破れる。相方のほうは、見苦しく命乞いをして笑われているばかり。だが突然、物凄い強さを発揮して魔族を瞬殺してしまう。
彼の呪いは「道化の無双」。笑われれば笑われるだけ強くなるという呪いであった。
……というお話。

おたがいに問題を抱えあう凸凹コンビが出会うまでのパートが、きちんと描かれている。
かたや、内面は内気で人見知りだが、外面は毒舌美人の少女。かたや、誰からも笑われているが、一瞬だけ強くなってカッコ良くなる少年。キャラのギャップの付けかたも上手い。アバターをかぶったキャラ×2というアイデアが秀逸。
二人の掛け合いは自然とボケとツッコミの流れになり、見所になっている。
呪いを持つ者は、特別な力も持つ。いずれ魔族との戦いになっていくのであろう。その物語の方向性も示せていて、興味も持てる。
総評で掲げた5つの「わかる」が、すべて実装された一作だった。

東京Lv99 節兌見一

新木伸 先生 寸評

主人公は異世界帰りの勇者であるが、現在、不眠症と受験に対する学力不足に悩まされている。そんな彼は、電車のなかで閉鎖空間に捕らわれる。襲ってきた魔法少女は、主人公と同じく異世界帰りであり、裏世界の帰還者ファイトクラブに主人公をスカウトしにきたのだった。……というお話。

異世界帰還者の異種格闘戦というアイデアは良い。魔法少女と勇者のガチバトル。うん。見てみたい。
だが応募作品としては、かなりの寸足らず。規定枚数の3分の2ほどの分量で応募されてきているが、魔法少女との腕試しバトルが途中のままで終わってしまっている。
この種のアイデアであれば、スカウトの腕試しだけでなく、その後の本戦出場第一戦までが、文庫40ページとして期待される内容となるはず。
IP小説賞の趣旨として、規定枚数より少ないこと自体は、なんら問題ではない。だがそれは、きりの良いところまで書き切っていた場合の話。
戦いの決着もつかないまま放り出されては、今後、主人公がシンプルに無双をするのか、それとも狂気に目覚めてバトルジャンキーとして雄叫びをあげるのか、あるいはスカウトを拒絶して刺客を次々と返り討ちにしていくのか、どういった方向に話が転がっていくのか、ストーリーの方向がまったく見定められない。そこは大きな減点ポイントだ。
このアイデアにバトルは2回必要なの。2点ないと、線分が引けないの。ベクトルが定まらないの。「方向」が生まれないの。1回目と2回目のバトルで主人公の心境がどう変化したかが、物語の放り投げられる「方向」となるの。
ちなみに、40ページ内でバトル本戦第一戦まで書き切るためには、今回の原稿の前半分にある主人公が鬱屈している日常シーンなどを大幅に削る必要があるだろう。また魔法少女との腕試しバトルも圧縮する必要があるだろう。そうした文字数配分の計算や、切り口の工夫も、「アイデア力」として計られる。
IP小説部門はアイデアを測る賞ではあるが、「処理の仕方」もアイデアのうちである。

あの娘の彼女になるために クロイシ

新木伸 先生 寸評

幼なじみのヒロインに告白して、フラれてから4年。ずっと友達を続けている。彼女が好きなのは女の子なので、絶対に可能性はない……と、それまでは思っていた。
彼女と二人で大学に進学して、サークル勧誘で先輩方に拉致られて、メイクサークルで女装させられ、美少女に仕立て上げられたら、彼女から「一目惚れ」されてしまった。
ずっと好きだった少女と恋人?になるため、主人公は、女装道?を歩む決意をするのであった。
……というお話。

いちどフラれてからのラブコメ。百合関係のセカンドチャンスに持ち込むための女装。――というアイデアは悪くない。サークルのお姉様方(半数くらい♂)のキャラも立っている。

だが、主人公、もしくはヒロインが普通すぎる。
主人公が「どんなやつ」かと問えば、「普通のやつ」としかいいようがない。であるならば、ヒロインはエキセントリックであるべきだが、そちらも普通の性格。ただ「女の子が好き」という、個性ともいえない性質を持っているだけ。
そもそも出番自体が少ない。セリフはわずかに十数個しかなかった。もっと喋らせて!

そのほか、大きな欠点として、余分なものを書きすぎている。
悪友との無意味な駄弁りなど書いている場合か。
本作のアイデアを最大限に生かすのであれば、メイクを施されて、鏡の中の自分が美少女に変わっていく!? そして幼なじみのヒロインから、一目惚れされて、男の時にはついぞ向けられたことのない熱い眼差しを向けられたー! ――という怒濤の展開からスタートすべき。
最大の武器、最大のアイデアを、なぜ16ページも後生大事にしまっているのか。理解に苦しむ。
最大兵装は、最初の1ページ目で、ぶっ放すべし。

(敬称略、順不同)

3次選考通過[3作品]

作品タイトル ペンネーム
東京Lv99 節兌見一
あの娘の彼女になるために クロイシ
道化の無双は笑えない 一ノ瀬 乃一

(敬称略、順不同)

2次選考通過[7作品]

作品タイトル ペンネーム
東京Lv99 節兌見一
あの娘の彼女になるために クロイシ
おれはジノブン カイソウ
社畜系王子従者、我に返る 雨足怜
竜血のランセット 暁社夕帆
道化の無双は笑えない 一ノ瀬 乃一
俺は極道だ、ギャルじゃねぇ‼ 胡乱ナ羽鷺

(敬称略、順不同)

1次選考通過[30作品]

作品タイトル ペンネーム
深緑のアズバロン 但馬誠彦
東京Lv99 節兌見一
サイバーパンク・プリンセス 八束みりん
EDEN 酒倉癲
全部滅ぼしてね、セツナ 245
それでもきっと俺たちは 陽はじめ
魔女のユウ 酒倉癲
旅するゴーレムと瞳の魔王さま やなぎもち
落選学園『フォールアウト・アカデミー』へようこそ! 緒方達也
河野夫妻の異世界紀行 伊達猫
クズループ 大野貴明
逆行老人——オレ達に明日はない 石崎恒人
東の魔女の家財道具 伊達猫
転生女神ディアナは、救わずにはいられない。 夏川葉一
恋をするには心がない 柚里カオリ
あの娘の彼女になるために クロイシ
おれはジノブン カイソウ
ヤニカスナースとハイテンションバニー ~ウサギ穴のユートピア~ 祇光瞭咲
東亜幻霊英雄伝 呉衛
社畜系王子従者、我に返る 雨足怜
禁忌の英雄、救世の使者となりて ホワイトモカ二号
竜血のランセット 暁社夕帆
勇者に長いあいだ封印されていた魔族、魔法禁止の平和な世の中でどう生きるのか 菊池 快晴
メーカー&プレイヤー 異世界の勇者がVRMMOを攻略するそうです 炭比谷きとり
レスキュー・シルバーマリン ユキトシ時雨
ハコの外の優しい密室 ゆう羅
鵺斬伝 木々暦
道化の無双は笑えない 一ノ瀬 乃一
俺は極道だ、ギャルじゃねぇ‼ 胡乱ナ羽鷺
会長代行! ねぎてろ

(敬称略、順不同)

TOPへ戻る