第7回集英社ライトノベル新人賞最終選考審査員 講評

山形石雄 先生

今回の候補作はどれも文章力が高く、構成もよくまとまっていると感じました。技術的な面では3作ともすでにプロの水準に達しているのではないでしょうか。また、どの作品も作者が伝えたいことや、楽しませたい部分がしっかりと読み取れる内容でした。欠点と思える部分や物足りない部分はあります。しかし短所をなくすことよりも、長所を伸ばしていくことを重視して創作に取り組んでいただきたいと思いました。今回の候補作は全て、それだけの技術水準に達している内容でした。三人の候補者の皆さんに、素晴らしい作品を創りだしていただいたことを深く感謝します。

スターダスト・ワールド
魔王とヒロインのキャラ造形はどちらも好ましく、ほのぼのとした気持ちで読み進めることが出来る作品でした。舞台設定も興味深く、この世界でどんな物語が繰り広げられていくのか、非常に興味がわきます。全体講評で書いた通り、文章も大変に読みやすく、こなれています。2作目3作目にすんなり続けられる結末になっていますが、そのせいかやや消化不良感があります。やはり新人賞に応募する作品である以上、1作で全てを出し切る気構えで臨んでいただきたいと思いました。
モンスターズマンションへようこそ!
長めの作品ですが、どの部分にも無駄と思える要素がなく、密度の高い内容でした。単純な善悪の対立ではない点が、敵味方双方のキャラクターに深みを与え、世界観を魅力的にしていたと思います。主人公がマンションを守ることを決意するに至る流れが、この作品の白眉だと思いますで。安易にマンション側につく展開にせず、恐怖や迷いをしっかりと描いている点が好感が持てました。ヒロインの時折見せる腹黒さが私はとても好きです。
エコー・ザ・クラスタ
まず題材が素晴らしい。素敵なヒロインと二人で漂流したいというのは、世の男性全てが抱く普遍の願望ではないかと思います。二人の漂流生活は甘酸っぱさとサスペンス性が見事に描かれており、読む手が止まらなかった作品です。困難を乗り越えることで互いの距離が縮まっていく過程の描き方が見事だと思います。反面、二人が帰還した後の展開はやや冗長さがあり、その点は少々残念でした。

丈月 城 先生

何年かぶりに新人賞応募作を読ませていただきました。
今回、審査員の相方はとても温厚で人格者の山形さん。きっと慈父のごときコメントをしてくださるでしょう。やさしさ担当は全面的におまかせすることにして、こちらは小説道場・師範代モードで講評してみましょうか……。
今回の応募者諸君、本文に関して言えば癖もなく、読みやすかったと思います。
反面、物足りなかった点として『構成力』『枠にとらわれないイマジネーション』『キャラの魅力』『読者へのサービス精神』などが目につきました。
みなさん、弱点の傾向が大体いっしょ。
今まで参加した最終審査ではその辺が結構バラバラだったので、今回の応募者諸君は少々おとなしい印象です。
新人賞なんだから、もっとはっちゃけてもいいんですよ?
刊行が決まったら締め切りまでに大胆な加筆修正をしてもいいかもしれませんね――と、新人諸君に悪知恵を吹きこんでみたり……。

スターダスト・ワールド
おお異世界に魔王。たしかにどちらもトレンドです。
でも、あなた。トレンドなネタほど商売敵との差別化に気を遣わないといけません。特に今時はコオロギやメガネが魔王になってもおかしくない時代。ただ魔王が異世界を冒険するだけでは、パンチ不足かもしれませんよ?
そしてキャラ。
このプロットは登場人物のインパクト次第で全然ちがう印象になります。
各キャラクターをもっと活かして欲しいと感じました。
個人的にいちばん惜しいと感じたのは、主人公である魔王。
ヒロインの姫への熱き想い、これは物語全体を牽引しうる強烈な要素となりえます。そこの掘り下げが物足りなかった印象です。彼はたぶん、作者のあなたが考えている以上の良キャラに育つ逸材ですよ。
モンスターズマンションへようこそ!
現段階で文庫本400ページ分。
本にすると、かなりのぶあつさです。ちょっと冗長すぎるかな?
もちろん新人の作品。抑えきれないパッションとイマジネーションゆえについつい書きすぎたのであれば、それも味となります。そのまま十年来の武器とする人もいます。が、どうもあなたはそういう物量で押すタイプではなさそうな……。
ネタと登場人物の取捨選択に、もっと意識してトライしてみましょう。
あと、こちらも全体にキャラが弱い。
しかも、一人称の語り手でもある主人公が温厚な常識人という作品です。
その分ほかのキャラを強くしないと、作品全体のインパクトが薄味になるという構造上の問題もあります。それも踏まえて、もうひとひねりした形を見たいと思いました。
エコー・ザ・クラスタ
「男女ふたりが密室でだべるだけの数十日を長編にする」
非常に挑戦的なコンセプトのもと、書かれた作品です。
問題は、そのことに作者がどこまで自覚的だったかで……。
特にそういうつもりはなく、なんとなく宇宙を舞台にバトルやラブコメを書きたかったのなら構成力不足。途中の「敵軍の女パイロットと主人公が宇宙漂流する」シーンを必要以上に長く書きすぎています。
逆に「宇宙漂流男女でラブコメ」を主軸にするつもりだったのなら。
まだまだストイックさが足りません。
そうであるなら序盤の宇宙戦闘や軍隊のくだりはむしろ贅肉で、全部削ってもいいくらいです。そこを書くより主人公とヒロインにラブコメさせましょう。ふたりが会話するシーンの繰りかえしだけでも読者を楽しませましょう。漂流中のイベントだって、もっともっと増やせるはずです。
コンセプトの面白さをしっかり引き出せれば、まだまだ化ける可能性ありですよ。

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