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第81回 小説は自由だ! 葉山透
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第2回 ゆうきりん
第1回 神代 明
いつも私をスキーにつれていってくださる優しい大先輩、舞阪先生からエッセイのバトンを頂戴いたしました。
エッセイは苦手ですが(理由は読めばわかります)、せっかく渡していただいたもの。がんばって勤めさせていただきます!
と思ったら、しかもなんと最終回ですって。私が。綺羅星のごとく作家さんが並ぶ中、私が締め。最終回。依頼書には「最終回に向けて何かそれらしいことを」と……。やってみます。がんばります。
さて。
初めて書いた小説というお題で、若かりし頃の思い出を語る方が多い中、なんだか浮きそうな予感がします。
なぜなら私は根っからの理系人間。算数で神童と呼ばれたことはあっても、国語は常に低空飛行。中学の国語の先生は、いつもため息をついて、私の成績を憂えていました。
いわく「おまえ、あんなに本を読んでいるのに、なんでこんなに現国の成績が悪いんだ」。
ええ、読書は大大大好きでした。ですが思い返すと、好きだったのはアガサ・クリスティ、エラリー・クイーン、星新一、アイザック・アシモフ、ラリー・ニーヴン……。ロジカルで理系の香り漂うSFかミステリー。三国志や水滸伝などの歴史系は途中で軒並み挫折。歴史と難漢字に重い人間模様は、どこをとっても文系で、同じ「小説」でも、私にとってはトマトとリンゴくらい違うものでした。
「こころ」の読書感想文に「これはミステリーです」と大真面目に犯人当てして呆れられ、漢字の書き取りは軒並み空白(読みはさすがにできました)、作文にいたっては、内容うんぬんの前に悪筆が過ぎて、ひらがなの書順を再指導される始末。そりゃあ先生も頭を抱えたくなるでしょう。
原稿用紙三枚の作文を書くくらいなら、微分積分の問題集を三冊やるほうが遥かにマシだった人間が、小説を書こうなんて「夢にも」思うはずがありません。
大人になっても小説はあくまで読むもの。受け手として楽しむもの。ワールドカップやオリンピック観戦と同じカテゴリーでした。
そんな私が選んだ職業はコンピュータのプログラマ。難しい漢字や文章を紙とペンで書く必要はありません。慣れ親しんだ記号やアルファベット、美しい数式をパチパチとキーボードで打てばよいのです。
紡ぐ言葉は、BASIC、Perl、C言語、アセンブル。相対する読者はコンピュータ(誤字脱字に異様に厳しいのが特徴)。
今も原稿は秀丸というエディタで書いていますが、長いこと私にとっての秀丸は、コンピュータ言語を書くものであって、日本語を書くものではありませんでした。
しかし、人生なにが起きるかわかりません。ある日、創作っぽい文章を書く機会がめぐってきました。まあ、必須な仕事ではないしと気楽な気持ちで書いてみたら。
ものすごーく楽しかったのです。
なぜなら小説は自由でした。
考えてみると、作文はエッセイで読書感想文は評論です。架空のことを好き勝手に書くわけにいきません。しかし、小説だったら好きに書ける。今日は遠足に行きました、桜の花が綺麗でした……なんてことでなく、遠足に行ったら宇宙人と友達になりましたって書いてもOKなんです!
大人になってからこんなことを悟る私は、やっぱり何かの国語的センスが欠けているのかもしれませんが、ともかく創作になると文章を書くことは不思議と苦になりませんでした。そして慣れ親しんだパソコンと秀丸は、日本語を書く機械としても超優秀でした。
漢字書けなくても変換してくれるし、推敲楽だし、消しゴムのカスでないし、自分の汚い文字を見なくてすむし。
なにより文章は表現のツールでしかないとわかったら、あれほど苦手に感じた「日本語の文章」はC言語やアセンブルと同じように身近なものになりました。
で。好きなように好きなだけ書いたら、なんとか小説らしきものが書けました。
初めて書いたオリジナル小説は「峰島勇次郎の遺産」(ピンときてくださった方、ありがとうございます)というタイトルで、SFとミステリとアクション映画とコンピュータという、私の大好きなものを放り込んだものです。
せっかくだからと応募して、あっさり落選しましたが、別作品でのデビュー後に、何回かの改稿を経て、電撃文庫から「9S〈ナインエス〉」として出版され、幸いにも私の代表作となっています。
生まれて初めて書いたオリジナル小説の1ページ目は、一語一句たがうことなくそのまま、今も一巻の1ページ目に印刷され、黒歴史にもならず、たまに読み返しては「ああ、これを書いたときの情熱を忘れないようにしよう」なんて思ったりもしています。とても幸せな「初めて書いた小説」だと思います。
そして。
アンケートハガキの中に、なぜか70代の男性の名前がありました。親戚の叔父さんではありません。
脳内検索一分間。……あ。
その方は、何度も何度も、ため息とともに私の答案を返してきた、中学の国語の先生でした。
当時から、怒られているのではないとわかっていました。先生は「おまえ将来どうすんだ。いくら数式ができても、言葉は社会生活の根幹にあるのに」と心配してくれていたのだということは。
ハガキにはこう書いてありました。
「○○君。とても面白く読みました。よい作品ですね。文章もたいへんけっこうです」
二十年の時を経て、国語の先生を安心させることができたのだと、なんだかとても嬉しかったのを憶えています。
と、なんかいい話風にまとめ、次の方にバトンを投げようと思ったら、私が最終回(以下略)。
ああ、どうしようとしばし自問自答。
まずは、これを言わねばなりません。
今までのエッセイにイラストをつけてくださった袴田めらさん、越島はぐさん、お疲れ様でした。毎回、エッセイにあわせ工夫を凝らしたイラストを拝見するのが楽しみでした。私と同じように、楽しみにしていた読者さんはたくさんいると思います。私のエッセイにもどんなイラストがつくのか、一ファンとして楽しみにしています。
そしてもう一度依頼書を読み直し。
「世の中には作家を志す人が数多くいますが、そんな人たちに向けての応援の意味も込めて、あなたの『青い時代の処女作』を紹介してください」
というのがこのコーナーの趣旨であるとありました。
では、最後くらい、作家を志す方に、若輩者ながら私の本音を少しだけ。
このコーナーでの数々のエピソードが語るように、結局のところ、作家は小さい頃から鍛錬が必要とか、文章が上手に書けるから作家になるとか、そういうものでもないようです。
「才能」って簡単に言いますが、それはいったいなんでしょうね。
世に酷評されさっぱり売れなくても「誰かにとって特別で一番」の小説もたくさんあります。逆もまたしかり。
「よい小説」「売れる小説」「面白い小説」の答えなんて、どこにもありません。
これが受けるんじゃないか、これが今の流行りだから、このレーベルに求められているものは……、と読者を想定し第一に考えるのは、一見、応募作品にもプロ作家にも一番大事なことのように思えます。でも多分違うと思います。
初めて小説を書いたときの「とても自由だ」と感じた気持ちは、今も変わっていません。フィクションだからなんでもあり。ゆえに楽しい。
けれど皮肉なことに、だからこそ、自分が書きたいものはこれ! という気持ちを確かに持っていないと、すぐに自由という名の迷宮に入り込み、実体なく漠然とした(まだ存在すらしていない)読者に惑わされ、何を書き何を伝えたかったのか、わからなくなってしまう……のも小説なのではないでしょうか。
自分が書きたいことを自信をもって自由に書く。
実はこれが一番難しいのですが、それがはっきり心に持てたとき、きっと、小説の神様は舞い降りてくれるんじゃないかと、思っています。
葉山透(ハヤマトオル)
神奈川県在住。
代表作に「9S<ナインエス>」(電撃文庫)、「ルーク&レイリア」(一迅社アイリス文庫)等。
新シリーズ「0能者ミナト」(メディアワークス文庫)は早くもコミカライズが決定し、
コミックエアレイド
にて連載中。
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