【アサウラ先生が書き下ろした「ベン・トー」スペシャル短編!ついにあの先輩の友人が…!?】
● モモとカズラと
 烏田高校の昼食時は他校に比べて、非常に穏やかだ。
 通常、高校の昼ともなれば、購買部に我先にと集う若者たちによる激しい戦いが繰り広げられるのが常だが、烏田高校の場合、校舎最上階に購買部の出張営業所がお昼限定で開設される。そこではパンや飲み物、おにぎり類などが販売しており、これによって生徒がうまく分散され、一つの場所に生徒たちが集中して大混乱を催すことなどはまずなかった。
 これは自立した生徒を目指す学校の方針に関係しており、寮生活や一人暮らしの学生が多いため、弁当を持参できない大多数の者たちに対する学校側の配慮だった。
 ただ、冷蔵を必要とする商品などは出張営業所では取り扱っておらず、どうしても校舎一階の片隅にある購買部の本店に足を伸ばさなければならない。
「もう各階に売店作っちゃえばいいのにな」
 そう、紫華 蔓{むらさきけ かずら}はぼやきながら、手にしたレジ袋を揺らしてガサリと音を立てた。三人分の昼食が入っているのでいささか重い。
 二年生の教室から購買部本店は若干遠いため蔓たちは友達の内でジャンケンで買い出しの人間を決めていた。今回の敗北者は彼女だった。より正確にいえば、今回も#゙女だった。
 蔓は高校に入るまで自分がジャンケンに弱いと思ったことはなかったが、もしかしたら天性の弱さを持っているのかもしれない。いつも三人でジャンケンをしているが、ぶっちぎりで勝率最下位である。はっきりいってほとんどあの二人のパシリも同然だ。
 いい加減違う方法で買い出しを決めるように提案しなくてはなるまい。蔓がそんなことを考えながら階段を昇っていると、踊り場で見知った顔と出くわした。
「あれ、蔓?」
 彼女が蔓の顔をまじまじと見つめてくる。茶髪の、やたらに胸元が大きいが、決して下品な感じはしない、不思議な女生徒だった。
「さっきの時間、アンタ寝てたんじゃない? 口元にヨダレの跡」
「え、ウソ!?」
 蔓は慌ててコンパクトを取り出し、自分の顔をその鏡に映す。バレッタでアップにまとめた髪にややタレ目、大人しそうな女の顔。その口の端には確かにうっすらとヨダレが流れた跡が……。蔓は慌てて指先でこすり、それを消した。
「……あぁ……もう普通に買い物しっちゃったよ……」
 顔を赤らめる蔓を見、茶髪は小さく笑う。
 茶髪の彼女はその形の良い鼻をクンクンとかすかに動かすと、蔓の持つレジ袋を見やる。
「おいしそ。あたしもそれにしよっかな。……それじゃね」
 茶髪の彼女はそう言うだけ言うと、チャオ、と手をヒラヒラと降って階段を下りていった。
 蔓もまた一度レジ袋に視線を向ける。確かに、いい香りがしていた。だが、今はそれよりも重要なことがある。
「あの二人もジャンケンの時に気付かないもんかなぁ……まったくもう、いらない恥かいちゃったよ」
 蔓はぼやきながらまた階段を昇り、二年生の教室へと向かった。
 教室内はいくつかのグループが手作りお弁当を広げていたり、パンに齧り付いたりしていたが、その中で、何も載っていない机を挟んで喋っている二人がいる。
 教室の一番後ろ、窓際の席。ショートの髪をヘアピンで分けたデコ娘と、肩口までの髪をワイルドに、しかしその実丁寧にそう見えるようにセットしているという変わったヘアスタイルの二人……木之下 桃{きのした もも}と槍水 仙{やりずい せん}だ。
 蔓は自分の席から椅子を彼女らの元へと持って行く。そして、レジ袋を二人が挟んでいる机の上に置くと、何故自分のヨダレのことに気がつかなかったのか、何で注意してくれないのか、何でもっと自分を見てくれないのか、と二人を八つ当たりのようにして言ってやろうと思ったものの……どうも二人は今週末に行われる丸富大学附属高校という、烏田から少し離れた学校の文化祭について話しているようだった。
 楽しそうな話だったので、蔓は自分のヨダレの件より文化祭の話の方に乗る。
「え、なに? 仙、丸富の文化祭行くの? 一人で?」
「蔓、さすがの仙も一人では行かないっしょ」
 小柄で丸顔、それと相まって生意気小僧のように思える細い釣り目をした桃は言いながら、レジ袋からお握り一個とマカロニサラダ、パックタイプのミルクココアという信じられない組み合わせの品を取り出す。……お礼の一言もなしに、だ。
 蔓は意識して頬を膨らませて見せる。
「さすがの、というのは何だ。まるで私が普段から……あ、蔓、悪いな」
 仙がストッキングに包まれた美脚を組み直しつつそう言うので、蔓の頬はすぐに萎む。一言、言ってくれるだけで蔓は満足なのだ。
 仙もまたレジ袋から自分の分の昼食を取り出した。ツナ&コーンサラダ(お徳用大盛り)とパックの野菜ジュース、そして購買部特性のお好み焼きサンド――焼きそば入りのぶ厚いお好み焼きにたっぷりのソースとマヨネーズをかけ、それをハンバーガー用のバンズ{パン}でサンドしたという、やたらにヘビーなサンドイッチを取り出した。重量的にも重く、カロリー的にもかなりあるはず。元々、空腹な体育会系男子向けの品である。
 仙の昼食は毎回サラダと野菜ジュースに加え、必ずヘビーな品を一品入れる。蔓は毎度そのメニューを見る度に仙がこれで一切太らないのは何かが間違っているような気がしてならない。神様は不公平だ。
 ちなみに蔓の食事はサラダサンドにフルーツ入りのヨーグルト、そしてノンシュガーの紅茶である。本当はもう少し食べたいが、最近太ってきたので、ちょっと抑えめだった。
 ……そんな彼女に、包み紙から溢れ出るソースの香りがたまらないお好み焼きサンドを買わせるのは、もはや何かの嫌がらせかと蔓は思う。
「部活の後輩たちと行くんだってさ」
「向こうに知り合いがいるんだ。まぁ、後輩の従姉なんだが、そいつに呼ばれていてな。……ん、何なら二人とも一緒に来るか?」
 言いつつ仙はサラダの透明なパックの蓋を開け、付属の青じそドレッシングをかける。そしてそれを割り箸で口に運ぶ。本店で買うサラダは買う直前まで冷蔵庫に入っているので冷たく、鮮度も良い。仙が咀嚼すると、口を閉じていてもレタスとスライスオニオンのシャキシャキという小気味良い音がかすかに聞こえてくる。
「桃はパスかなぁ。その日、ダーリンの定期路上ライブの日だもん」
 桃は天井を見上げるようにしながら、パクリとお握りに齧り付いた。その様子を眺めながら、蔓は紅茶を口にする。
「まだやってんの、アレ。もういい加減止めてあげなよ。絶対もうやめ時を見失っているんだって」
「まだって何? 桃のダーリンはいずれ世界に羽ばたくロックミュージシャンだよ? 音楽やめる時は死ぬ時のみ!」
「……だからさぁ、音楽やり続けるのもいいし、ロックミュージシャンが路上ライブすんのも大いに結構だけど……たった一人、子供用キーボードで演奏するロッカーなんて聞いたことないって」
「だからロックなんじゃん! 誰かが築いたスタイルを模倣するなんてナンセンス! 常にカウンターカルチャーとしてそれまでの定義を打ち崩していく……それが本当のロック! ほら熱い! もう惚れちゃう!」
「桃の彼氏さんは、多分、それまでの定義を打ち崩しているんじゃなくて、単に道を踏み外してるだけだよ」
 桃はミルクココアのパックにストローを差し込むと、不満をアピールするようにわざと音を立ててチューチュー吸った。
「蔓はいつもそうやって大人しそうな顔をしてヒドイこと言うんだもんなぁ。ほら、仙からも言ってあげて、ロックに決まったカタチはないって」
「そうだぞ、蔓。私にはよくわからないが……とりあえず、ろくに知りもしないで、普通じゃないからと、頭から否定するのは間違っている」
「……また最後はわたしが悪者ですか……」
 シクシクと擬音を口ずさみながら、蔓はサンドイッチに唇を這わす。
 桃の言い分はともかくとして、仙の言い分そのものは正しい。だが、彼女の場合、音楽に全然明るくないためにそう言えるのだ。
 そんな桃がそうだ≠ニ言えば、そうなのか≠ニ納得してしまう仙の素直なところが好きでもあり、ちょっとだけ迷惑でもあり……。
 仙はお好み焼きサンドの包み紙を開く。それまで漏れていたソースの香りが、今度はさらに、一気に、全力で、溢れ出る。
 そのお好み焼きサンドは本店内でパートのオバチャンによって作られるため、出来たてなのだ。ほっかほっかの湯気が香りと共に広がり、蔓を誘惑する。しかもその香り……かすかに焦げたソースの香ばしさが混じっているのだ。醤油でもそうだが、どうしてこう、焦げた調味料の香りというのは空腹を刺激するのか。
 唐揚げパンや、シンプルな焼きそばパン、コロッケサンドなどの校舎内で作られる品が有名ゆえに生徒の人気を集めているが、このお好み焼きサンドとてそれらと並ぶだけの求心力はあるだろう、と、蔓は思う。しかし、バンズ、お好み焼き、焼きそば、という炭水化物を三つ重ねたサンドイッチということでイメージ的にあまり良くないのだろう。蔓とて、こうして仙が目の前で包み紙を解くのを見ずに、そしてこの香りを嗅がずに、そのお好み焼きサンドという名だけ聞けば、あまり手が伸びるような品ではないような気がする。
 仙が「……うむ」と何かを覚悟したような言葉を一つ放ち、それから大きな口を開けてお好み焼きサンドに齧りつく。バンズの間のお好み焼きがグチャっとなるようなことはなく、焼きそばの麺こそ多少はみ出るものの、綺麗に噛み切っていた。そして、彼女は頬を大きく膨らませてもしゃもしゃと租借する。
 普段は三人の中で一番大人びた容貌の彼女だが、その瞬間だけはまるで小さい子供のよう。そして……それ故に、彼女が笑顔で食べるお好み焼きサンドがまた一層おいしそうに見えるのだ。思わず蔓は生唾を飲む。サラダサンドのさっぱりとした味わいでは……ちょっと満足できそうにない。仙の食べっぷりは目に毒だ。
 ゴクリ、と槍水は喉を鳴らしてその大きな一口を胃に落とす。
「……うん、うまい。あ、桃はダメとして、蔓はどうする? 来るか?」
「うーん、わたしもその日は昼からボランティア活動があるから、ちょっと」
 蔓の所属する部活動だった。ボランティア部という、いわゆる社会奉仕を行うだけの何だかよくわからない部である。進学に有利にはたらく部だとして入るあざとい人間も多いが、蔓の場合は昔から単に人の役に立つのが好きだということで入った部だった。人のために何かして、その人が喜んでくれるのが大好きなのだ。それで感謝してもらえるのなら最高だ。お婆ちゃん子だったせいかもしれない。
 ……ただ、昼食のパシリは違うけれど、と蔓は胸の内で付け足した。
「そうか、残念だな。たまには一緒に遊ぶのもいいかと思ったんだが」
「そうだね、次の機会に」
 仙の言葉を聞いていて、蔓はヨーグルトの蓋を開けながら、あることを思う。
 ――相変わらず変な三人組だなぁ。
 放課後や休日の多くはボランティア活動に勤しんでいる自分と、ロッカーなのに未だに手しか握ったことがないという純愛街道まっしぐらな彼氏の音楽を応援するために日々絶え間なく活動している桃、そしてハーフなんちゃらというスーパーのお弁当を購入する活動を夜遅くまで続ける仙。どこにも共通点がない上に学校以外ではあんまり一緒に遊ぶことも少ない三人が、一年の時から何となくつるみ、何となく今も一緒にいて、こうして何となく自分をパシリにしつつ昼食をとっている。
 結局、人との関係は巡り合わせなんだろうな、と蔓は思う。
 もし世界のどこかに、本当に神様が結びつけたであろう赤い糸で繋がっている運命の相手がいたのだとしても、世界の反対側とかにいられたんじゃそもそも出逢うだけで大変だ。けれど運命の相手でも何でもない相手だとしても、同じ学校で隣の席になったりすれば案外結ばれて、平均以上に幸せになったりするのかもしれない。
 大変な思いをし、必死になって運命の相手と出会うのと、身近な人と肩が触れあうように気がついたら結ばれているのと……果たしてどちらが幸せだろう。
 少なくとも自分は後者だと、蔓は思う。元々無理はしたくないタチだ。落ち着いて、のほほんと生きていきたい。きっと大勢の人もそうだろう。何より運命の人などという、いわゆる最上級の人と一緒にいたのでは逆に気疲れしてしまいそう。
 桃と仙との関係もそれと似たようなものだろう。自分とは趣味とかも全然違うけれど、だからこそ気楽で、のほほんとしていられる。良い組み合わせだ、そう素直に思えた。
「そういえば一緒に行くのって仙の後輩だけ?」
 桃がマカロニサラダを囓ったお握りの上に載せて、かぶりつく。蔓には理解できない食べ方だった。
「いや、部活の合宿先で知り合った中学生の二人も来る。学校見学会も文化祭に合わせてやるみたいなんだ。そいつらと会うのがある意味メインの目的だな」
「あー、そういえば前に写真見せてもらったっけ。……あ、合宿といえば桃と蔓の選んだ服、良かったでしょ?」
 桃がお握りを口にしつつ、したり顔で細い目をさらに細め、見上げるように仙を見た。仙が言葉に詰まり、視線を窓の外へ向ける。その頬がほんのり、朱に染まる。ほんのわずかではあるが、彼女の白い肌のせいでそれがわかりやすかった。
「……う、ん、まぁ、それなりに。良かったよ」
 桃が笑みでさらに目を細め、椅子の背もたれに体重をかけた。
「っで、しょー! 仙ったらいいモノ持っているのに放っておいたら無難に無難にいっちゃうんだから、もったいないんだもん。桃たちに任せて正解だよね。……旅行先で男たちの熱い視線が……あっ、体に染みるぅう?」
 桃は自らを抱きしめるようにして、身をくねらせる。仙はそんな桃の額をペシッと手の先で軽く叩いた。その顔色は赤みが増していた。
 仙は美人なくせに今でもまだ褒められるのに慣れていないのだ。
「が、合宿だったんだ。遊びに行ったんじゃない。みんなそれぞれの半額――」
 桃は割り箸の先をマカロニの穴に刺しこむと、それをマイクのようにして仙に向ける。
「でも、佐藤だっけ、後輩に男子一人いるんでしょ? 何か言ってなかった?」
 うっ、と、仙は言葉に詰まるものの、しばし躊躇した後、唇を薄く開けた。
「……す……」
「「す?」」
 蔓と桃は身を乗り出す。好奇心の旺盛な桃は当然としても、蔓もまた、仙のために選んだあの服はなかなか上出来だと思っていた。ある種、桃と蔓の共同作品である。評価が気になった。
 だが、そんな二人の姿勢が逆に仙の口を閉ざさせてしまったようだ。
「……な、なんでもいいだろう。もう、忘れた」
 少し怒ったように仙はむくれ、インタビューは終わりだというように箸の先のマカロニを食べてしまう。
 今の言葉は嘘だろう、と蔓は直感する。忘れていたというのならす≠ニいう言葉は出てこない。しかも思い出したといより、躊躇った後の言葉ということは、きっと仙にとって印象的な言葉だったに違いない。
 嬉しかったか、恥ずかしかったか、嫌だったか。最後のはなさそうだな、と蔓は思う。何せ、自分と桃が選んだのだ。きっと、凄い、スゲー、素晴らしい、素敵、のどれかだろう。
 だが、桃は素直に信じたようだ。彼女は正直で、単純だ。……だからこそ、ちょっとワガママなのだけれど。
「なぁんだぁ、つまんないのぅ〜。……あ、そういえばその男子も丸富の文化祭に行くんだっけ?」
「ん。あぁ、そうだが」
 桃が自分の顎先に指を這わせ、目線をしばし天井の辺りで泳がせた後、蔓の目を見てくる。そうして二人は頷き合う。
「……二泊の旅行、そして他校の文化祭にも一緒に……フムン。紫華くん、これは怪しいとは思わぬかね?」
「へぇ、木之下の旦那。こいつは臭いますなぁ、ひょっとしたら、ひょっとするかもしれやせんぜ?」
「仙の親友……いや、保護者として、これはチェックせねばなるまいのぅ」
「ですのぅ〜」
 ゲヘ、ゲヘヘヘ……、と、桃と蔓は仙を見つめながら三下奴よろしくの芝居がかった笑い声を口にする。仙が怯えるような目をした。
「……な、なんだ。なんなんだ?」
 自分だってたまには責める側に回ったってバチは当たらないだろう。蔓はそう思った。

「木之下の旦那……どう思いヤス?」
 蔓はHP同好会とかいう部室の円卓に身を乗り出して、値定めするように一年生の男子を見つめる桃に声をかける。
 見つめられている佐藤という男子生徒は居心地が悪そうだ。当然といえば当然で、大きな円卓の窓側には仙、桃、蔓が並んで座り、対面に佐藤が一人。まるで面接か、審問会だ。
「フムン。では、佐藤君、といったかな? キミ、家族構成は?」
 桃としては、もう完全に面接官のつもりなのか、できるだけ声色を硬くし、尊大な雰囲気を出そうとしていた。だが、元々が子供っぽい姿をした彼女、子供がごっこ遊び≠しているようにしか見えないのが残念だった。
「……えっと〜、残念な父と母が一対……」
「女の兄弟は?」
「……姉妹はいないですけど……ってか、あの、槍水先輩、こちらの方々は?」
 仙が口を開こうとするものの、それを桃が佐藤を見つめたまま手で制した。
「今、喋っているのは桃たちであって、仙じゃない」
「し、失礼しました、桃先輩」
「桃言うな! ……木之下先輩と呼べ」
「……わかりました、木之下先輩」
 烏田の女子制服はネクタイの色が学年によってわけられているので、それで佐藤は先輩と判断したらしかった。そうでなければ小柄な桃を先輩だと判断するのは難しいだろう。
 お互いの自己紹介もなしに椅子に座らせて始まった質疑応答、その状況は完全な圧迫面接の様相となっていた。
 桃の一頻りの質問が続いた後、フムン、と彼女は椅子に深く腰掛け、虫でも追い払うかのように手を振った。
「OK、大体わかった。佐藤君、退室して良し」
「退室って……あの……」
 ドンと、円卓を桃は叩く。
「呼ばれるまで大人しく廊下で待っていろ!」
 は、はい! と、佐藤は声を上げて、尻尾を踏まれた犬のように部室から出て行った。
「いきなり押しかけてきたと思ったら……お前たち……これは、いったい何々だ?」
 いつものようにその綺麗な足を組み、円卓に頬杖をついて座る仙が少し不満げな顔をして桃を見る。桃といえば、そんな仙の様子などどうでもいいとでも言うかのように、腕組みをし、何かを考えるように俯いていた。
「女兄弟がいない、そして一人っ子……これはマザコンの可能性が高い」
「桃、さすがにそれは偏見」
 桃は昔から自分理論で突っ走るクセがある。それを助長するのが純朴な仙であり、止めるのが唯一の常識人と自負する蔓だった。
「佐藤なら女兄弟はいないが、同じ歳の従姉がいるぞ。昔から姉弟同然だったらしい」
 仙の何気ない言葉に、桃はピクっとその細い眉を動かす。
「女慣れしている……これは遊び人の可能性が高い」
「桃は、あの佐藤君をとことん悪者にしたいんだね」
「彼が桃たちの仙にたかる悪い虫だったら、桃たちが払わなければならないからね。念を入れるに越したことはないよ」
「……私はいつからお前たちの庇護下に置かれることになったんだ? それに佐藤は悪い奴じゃない。お前たちは何を心配して――」
「すでに取り入っている……仙が無垢な世間知らずだとしても、これはやはり桃の読み通り遊び人の可能性が高いと判断できる」
「人をバカみたいに言うな」
 ビシッと桃のおでこを仙が指で弾くが、それでも桃は意に介した様子もなく、顎先に手を当て、思案を巡らし続ける。
 円卓の隅を見つめていた彼女の目が、シャキーンと擬音が聞こえてきそうな鋭さで蔓を見つめてきた。
「これはやはりきちんと確認する必要がある。そう思わぬかね、紫華君」
「へ、へぇ、まぁ、はい?」
 いまいち桃の真意がわからず、蔓は曖昧に応じてしまう。すると桃は真剣な顔をしながらさらに言葉を紡ぐ。
「では紫華君、佐藤君を誘惑してきたまへ」
「……へぇ?」
「佐藤君が遊び人なら蔓のようなスキだらけの女子高生はすぐにツバをつけるに違いない」
「い、いやだよ! わたしそういうの! 桃がやればいいじゃん!」
「桃にはもうダーリンがいるから演技でもそういうことはできないの。……まさか蔓、ボランティア部で見知らぬ人は助けられても、友達の仙を助けることはできないとか?」
「そ、それは……」
 仙を助けるのなら喜んでやるのだけれど、別にまだ佐藤が悪い人だと決まったわけでもないし、それを判断するために自分が彼を誘惑するなど……。さすがに自分のキャラじゃない。蔓はそう思うものの、言葉としてその気持ちが出てこない。
「ツバつけてきたらアウト、蔓がその場で女を甘く見るな!≠ニ言って佐藤君にビンタで制裁。ツバつけられなかったら蔓が女としてアウト」
「それどっちもやだよ!」
 どっちに転んでも罰ゲームみたいな桃の提案を全力で拒否したい蔓だったが、彼女はもう考えを変えるつもりはなさそうだった。仙もどこかもう自分は関係ないというような、冷めた目で蔓たちを見ている。助けは求められそうになかった。
 蔓は桃の小さな肩を左右に揺らし、彼女のおでこをペチペチと手で叩く。
「ペチペチするな! えぇぃ、そんなだから蔓は未だに彼氏の一人もできないんだ!」
「それ仙も一緒じゃん!」
「仙は蔓と違って選べる立場にいるのだよ」
 そう桃に言われてしまうと蔓もさすがに黙る他なかった。自分たちの中で女性として一番恵まれているのは誰か、と考えた場合、仙がブッチ切りでトップなのは間違いない。子供っぽい、というより、どちらかといえば少年っぽい桃と、「良い娘だよ? 蔓は良い娘だけど、なんて言うか……無難過ぎる」とか面と向かって人に言われるような没個性な蔓。二人が束になってかかったところで、思わず見とれる脚線美、何を食べても逆に何もしなくても変わらない引き締まったウェスト、透き通るような白い肌に栄える深みのある大人びた瞳……挙げればキリがないが、とにかく、そんな仙に立ち向かえるわけがなかった。
 彼女に勝てるのはせいぜい料理作りぐらいだ、と、蔓は自虐的に思う。そして、無論女性としての魅力は外見的な要因にのみ左右されるわけがない、むしろ良く知ってもらえれば自分だって……と、続けて自己弁護を脳内で蔓は展開するも、同時にそんな自分が段々と情けなくなってくる。
「ん? 私が何を選べるんだ?」
 どうも話半分にしか聞いていなかったのか、仙がその黒水晶のような眼をキョロキョロと動かしつつ、訊いてきた。
「未来だよ」
「あぁ、そうだな。まぁ、未来は誰でも選べるものだ」
 曖昧な桃の解答に、悪気はないにせよ、蔓の胸にグサリと来る言葉を仙はサラリと言ってのける。別に連想しなければいいのだろうが、どうしても今の蔓には『未来≒彼氏』ということにしか思えず、勝ち組がナチュラルに嫌みを言っているようにしか聞こえない。
 う、うぅ……、と悲しげな呻きが蔓の口から漏れ出た。
「んもぅ、しょうがない。奥手な蔓のために、唯一の彼氏持ちのこの桃様が良い感じのセリフを考えてあげよう」
 桃は言うなり、ポケットからいつも彼女が持ち歩いている手帳を取り出し、それに何やらペンを走らせる。蔓には、もう、嫌な予感しかしない。
「これで、良しっと。いい、ここにある通りに会話していけば大丈夫。うまくいく。男がグッと来る台詞を用意した」
「でも、うまくいくってのは、つまり、制裁しなきゃいけないってことだよね?」
「んーもぅ〜本当蔓は奥手なんだから。しょうがない、そこだけは桃が出て行って制裁してあげるよ。扉越しに聞き耳立ててるから、頃合いを見計らって出て行く。それでいいね、はい、それじゃ蔓、発進せよ!」
 ――凄く、帰りたい。蔓は一人、そう思った。


 コンコン、とノックが鳴った。
 突っ立っていた僕は思わず、え? と言葉を漏らす。だって、廊下だぞ、ここ。HP同好会の部室の中から、廊下に向かってのノックなのだ。意味がわからなかった。
 扉がそーっと開くと、先ほどまで僕に圧迫面接をしていた一人、タレ目で大人しそうな顔をした方の先輩が顔を出してくる。僕を見つけると、おどおどした様子で廊下に出てきて、隣に立った。
「……佐藤君、で良かったんだっけ?」
 何故か彼女は顔を真っ赤にして、絞り出すように言葉を紡いでいくのだけれど……いったい、何だというのだろう。多分、槍水先輩の友人の方々だとは思うのだけれど……。修学旅行の打ち合わせをしていたにしても、何か変だった。
「あ、はい。佐藤 洋と言います」
「そっか。……それじゃ、よ、洋君って呼んでいいかな?」
「え、えぇ……はい」
「わたし、紫華蔓、二年。よろしくね、洋君」
「あ、はい、よろしくお願いします……?」
 ……何だろう、このフワっとした、つかみ所のない会話は……。
 どうしていいのかわからず、僕は紫華先輩を見、そして彼女は彼女で顔を赤くしたまま俯き加減で僕を見上げるようにしてチラリチラリと見てくる。しかし、決して目を合わせようとはしない。
 一瞬、この僕に一目惚れして……とかいう展開かとも思ったのだけれど、何だろう、何か、そういうのとは微妙に雰囲気が違うのだ。
 例えるなら怖いおじいさんの家の窓ガラスを割ってしまったのを、微妙な愛想笑いを浮かべつつ謝りに来た子供のような……。
「洋君……年上は好き?」
 ……アレ? アレレ? 予想外に、やっぱりそういうアレな感じなのだろうか。いや、それならそれで嬉しいのだけれど、ただやっぱり妙な違和感はぬぐえない。
「え、えぇ、まぁ、その、下でも上でも」
「そう……そうなんだ。うん、そうかぁ」
「あの〜、いったい、何々です?」
「いいのいいの、気にしないで」
 いや気にするって。ってか、何がいい≠ニいうのだろう。
 紫華先輩はこちらのことなど気にする様子もなく、携帯を取り出すと、そのストラップを持ってブラブラと揺らして見せる。
「えっと〜……あ、わたしね、実は全然友達がいなくて……ほら、この携帯も全然使ってないんだ。誰か優しい人が時々電話とかしてくれたら嬉しいなぁ」
「はぁ」
「……誰か優しい人が……時々、ね? ほら、電話とかを……わかるよね、洋君」
「え、えぇ、そうですね」
 ――そして、時間が止まったように、僕と紫華先輩の間に妙な沈黙が流れる。
 どうしていいのかわからずにいると、彼女は真剣な、それでいて不安げな目をしつつ、そっと僕の両肩をつかんでくる。
「……ど、どうして? 普通、こういう時って、だったら僕と〜≠ニかいう感じで番号教えてくれたりするんでしょ? するよね? するものだよね? それともわたしってやっぱりそこまで魅力ない? ねぇ、やっぱりわたしって無難過ぎてダメな感じなの?」
 ――ヤバイ。この人、かなりヤバイ。
 思わず僕の心の中で某リアクション芸人の『ヤバイよヤバイよ〜』という声がリアルに再生されるぐらいに、この人ヤバイ……ってか怖い!!
 最初のおっとり顔からは想像がつかなかったが、紫華先輩は……多分、ちょっと心が弱いというか、若干、電波が入っているのかもしれない。
 しかもこんな彼女を自分では無難過ぎるって言うとか……完全に自覚症状もなしだ。危険だ。これは何をしでかすかわからないぞ!
 可能であれば絶対に番号とか交換とかしたくないのだけれど……逃げるキッカケが見つけられない。僕は泣く泣く携帯を取り出し、若干震えている手で赤外線通信のモードにする。
「それじゃ、これで通信っと……。ありがとう、洋君。本当にありがとう……。わたし、本当に自分がダメなのかと思いそうになってた」
 こ、こわい……。この人、ガチでヤバイ気がしてきた。
 だって、今連絡先を交換する瞬間、小さく「これであと二つ……あと二つやったら終われる……」とかわけのわからないことをボソッと呟いていたのだ。怖いにも程がある。一体何が終われる≠ニいのだ。
 ……はっ、まさか、終われる≠カゃなくて追われる≠ネのか!? 何か呪いの儀式みたいものがあって、その条件の一つが僕と連絡先を交換することで……あと二つやったら追われる≠フか? だが、一体誰が、誰に追われるんだ? 紫華先輩がか? それとも僕が、か?
 ダメだ、何にせよ、やっぱり耐えられない。何か理由をつけてこの場を脱出しなくては――!!
「それじゃ、ねぇ、洋君。洋君って、アレは好きかな、あの黄色い――」
「あ、あの、すみません。僕ちょっと教室に忘れ物しちゃったみたいで……それじゃ!」
 僕は踵を返して走り去ろうとするものの、紫華先輩は僕のシャツを必死につかんできて逃がそうとしない。僕はその手を振り解こうとするのだが、先輩も必死だ。
「待って! 行っちゃダメ、今行かれたら誤解が生まれちゃう! 落ち着いて、もう少しだけわたしとお話して!」
「できません! 教室に忘れたのはとてもとても大切なものでして、はい、すみません、すみません、だからその手を――」
「いや、だから、洋君、実は違うの、全然違うの! 実は、実はね、……行っちゃダメだって! 本当に誤解が生まれたままになっちゃうから! わたし違うの、わたしそういう感じの人じゃないの! 洋君だってわかるよね!?」
「すみません! そういう人にしか思えないです! だから逃がしてください!」
 僕は何とか力ずくで彼女の手を解くものの、その瞬間に彼女は体ごと寄せてきて僕に抱きついてきた。……こんなに嬉しくない女性からの抱擁はなかなかない。
「あぁ、もう無理、もう無理! 桃お願い、もう出てきて、わたしの誤解を解いて! わたしそういう人じゃないって、説明して!」
 その時、部室の中からチープな電子音が聞こえてくる。何か、子供用……というかオモチャのキーボードで奏でた音楽みたい。
 それが、ピッという音で途切れる。携帯の着信メロディか何かだったらしい。そして「うん、うん、え? ホント、ホント!? すごーい! わかった!」という、キャピキャピした声が聞こえてくる。
 な、なんだ……いったい、これから何が行われようというのだ!?
 バンっと、勢い良く部室の扉が開かれると桃……じゃなくて、木之下先輩が真剣な顔で現れる。僕は逃げようとしていた動きを止め、息をのんだ。
「あぁ、良かった、桃お願い、もうわたしには無理だよ。洋君にちゃんと説明を……桃?」
「桃にはそんな暇ないっ!」
 スタタタと小走りに廊下を走っていく木之下先輩の姿に紫華先輩が僕に抱きついたまま、ポカーンとした顔を浮かべる。
「え? あ、ちょっちょっと待って、桃……え、アレ? どうしたの?」
 階段前で木之下先輩はくるりと振り返ると、両手をグーにしてそれで口元を隠すようにして身をくねらせつつ、溶けてしまいそうな最高の笑顔を浮かべる。
「桃のダーリンから連絡があって、たった今新曲が完成したんだって! 桃に一番に聞いて欲しいっていうから、今から行くの!」
 待っててマイダーリン♥ と、声を上げながら木之下先輩は階段を駆け下りていく。その足音が遠のくにつれて、紫華先輩の顔が赤くなったり、青くなったりを繰り返した。
 とりあえず、僕から手を離したので、そろりそろりと僕は紫華先輩から距離を取る。その間に先輩は決して僕の顔を見ようとはせず、顔中にネットリとした汗を浮かべていた。
「ご、ごめんね。あのね、実は、凄い誤解が生まれてそうな気がするけれど……本当にごめんね。で、でもね、あの……えっと、順を追って説明すると、わたしと桃は仙の友達で、それでその、今回のことは……あぁ、もうなんて言ったらいいんだろ。……あ、そうだ、今慌てて説明しても余計な誤解がまた生まれちゃいそうだから、とりあえず今夜にでも電話するから、その時にちゃんと説明するね。そ、それじゃ、またね洋君! バイバイ!」
 一人にしないで、待ってよ桃! と、やっぱりアレな人っぽい言葉を発しながら紫華先輩は木之下先輩の後を追って行った。
 取り残された僕は何だかよくわからないが、凄い精神的疲労を覚える。
 槍水先輩、一体あの人……いや、あんな人とどういう関係なのだろう。部室とスーパー以外の彼女についてはあまり詳しくないのだけれど……また一層謎が深まってしまった。
 僕はHP同好会の部室の扉を開け、中に入ると、円卓に頬杖を付き、つまらなさそうな先輩の視線が僕を迎えてくれる。僕は彼女が座る円卓の窓側の席、要は隣に座った。
「あの〜……今日は、何なんです?」
「私に聞かれてもな。よくわからない」
「僕が言うのもおかしなことかもしれませんけど……先輩、友人はきちんと選んだ方がいいかと」
「……普段は、結構普通なんだが……」
 そう言って先輩が苦笑していると、部室の扉がそーっと、静かに開く。紫華先輩が戻ってきたのかと思って僕は一瞬身を強ばらせるものの、顔を出したのは、白粉だ。彼女は部室内を見渡すと、ホッと一息吐いた。
 それからようやく白粉が室内に足を踏み入れ、手にしていた鞄を窓際の棚の上に置く。
「先ほどまでいらっしゃった方々って、先輩の友人の方々だったんですか?」
「ん、そうだ。悪かったな、気を遣わせてしまって」
「あ、いいえ、全然……あれ、ひょっとして気づいてたんですか?」
 僕の隣の椅子に座ろうとしていた白粉が、何かに驚いたような顔をして、動きを止める。先輩はどこか得意げにフフンと鼻で笑った。
「まぁな。お前たちならスーパーでなくとも、気配で大体わかる」
 なんのこっちゃ? と、僕が疑問に思っていると、白粉が説明してくれる。どうも彼女は僕が来るより先に部室に来ていたものの、扉を開けようとした瞬間、室内から知らない女性の声が複数聞こえてきたので、中に入ることもなく一旦ライトノベル研究会の方の部室へ行って時間を潰していたのだという。しばらくラノ研で大人しくしていたら、賑やかな声が二つ聞こえ、二人分の足音が部室棟を駆け下りていったので、再度顔を出してきたのだそうな。
 白粉らしい、といえば、白粉らしい。
「さて、それじゃうるさいのもいなくなったことだし、トランプでもするか」
 そうですね、と、僕が言うと白粉がいそいそと棚からトランプを取り出してくる。
 その間に僕はどうしても一つ、やっておかねばならないことがあった。
 僕は携帯を取り出すと……颯爽と紫華先輩の番号を拒否リストに登録した。これだけは忘れるわけにはいかなかった。


 自室のベッドに座る蔓は泣きそうな気分で携帯を耳に当てていた。
 年下の男の子を誘惑するというかつてない桃からの無茶ぶりを途中で投げ出してから早数時間。すでに時刻は日付が変わろうという時間帯だった。
――トゥートゥートゥートゥートゥー……。
「えぇ〜……なんでぇ、なんで出てくれないのぉ……」
 仕方ないので、一度切る。メールを打ってこれを送信。
 そして、十数分後、再び佐藤洋に電話をかけた。


 自室のベッドに座る僕は泣きそうな気分で携帯を見つめていた。
 拒否リストに登録してもしっかりと記録される着信履歴は五〇件まで記録可能なのだけれど、すでに半数以上が紫華先輩の名前で埋められていた。……そして、メールもすでに同数程度ひっきりなしに届いている。
『今忙しい? また後でかけるね』
『何かしているのかな?』
『電話に出て欲しいな』
『ちょっとだけでいいから、お話しようよ』
『何度もごめんね。でも、すぐ終わるから、電話をとって』
『昼間のこと、謝りたいの。だから電話に出て』
『お願いだから電話に出ててくれないかな?』
『多分誤解が生まれていると思うの。あれはね、誤解なの、お願い謝らせて』
『あれは全部桃が原因でね。そのことを説明したいから電話を――』
 一件読む度に、僕の背筋が震えた。
「これが本物ってヤツなのか……こ、こえぇ……。うわっ、また来た!」
 恐る恐る届いたメールを開いてみると、何か今までとは桁違いの長い文面が書かれていた。『しょうがないからメールで全部説明するとね、実は……』という言葉から始まるそれを、僕は恐怖のあまり即座に読むのを辞めて、それまでに届いていた紫華先輩と合わせて全てを削除した。

 その日、僕は携帯の電源を切り、震えながら寝た。


 <了>