某日、下校途中のこと。
「優樹よ。一度やってみたいことがあるのだが」
 神鳴沢世界が遠慮がちに申し出てきた。
「そりゃもちろん」桐島優樹はうなずいて、「なんでも言ってくれ。なんでもするから」と答えるのだが、世界は首を振り、
「やっぱり止そう。今の発言は忘れてほしい」
「え? なんで?」
「ルールに反することだからだよ。おまけにわたしが想像するに、かなり高度なテクニックが必要とされるように思う。果たしてそんなことを貴殿に頼んでいいものかどうか」
「気をつかってもらえるのは嬉しいけどさ」
 優樹は笑って、
「でも言ってみてくれよお前の望みってやつを。俺はそれを叶えてやりたい。全力で、どんなことをしてでも。言っただろ? お前を幸せにするのが俺の仕事なんだって」
「優樹……ありがとう」
 世界は瞳をうるませた。
 それから意を決したように、
「ゲームセンターに行ってみたい」
「ゲームセンター?」
「うむ。そこでクレーンゲームというやつをプレイしてだな、ぬいぐるみなどの景品をゲットしてみたいのだ」
「…………」
「もちろん学校帰りに寄り道するのはルール違反だとわかっている。アイスクリームを買い食いするよりきっとハードルも高いだろう。でも、わたしはどうしてもやってみたい……だ、ダメだろうか?」
 上目遣いで世界は言った。

 その日。とあるゲーセンのクレーンゲームコーナーでは、両手に山ほどのプライズを抱え、ほくほく顔をする銀髪少女の目撃談がいくつも報告されたという。
 それと平行して、空になった財布を眺めながら何度もため息をつく、目つきの悪い少年の目撃談も少なからずあった――とのこと。

case No.2 end