某日、下校途中のこと。
「優樹よ。今日はちょっとした提案があるのだが」
 神鳴沢世界が遠慮がちに申し出てきた。
「提案ってのは?」と優樹が訊くと、世界は緊張ぎみに、
「しりとりをやりながら帰ろう」
「しりとり? そりゃまあいいけど。何でまたいきなり?」
「ではいくぞ。『りんご酢』!」
「ほんとにいきなりだな……ええと『寿司』」
「うーん……うーん……じゃあ『師走』!」
「師走? なんか渋いところ選んでくるな……ええと『寿司めし』」
「えーとえーと……『シラス』!」
「『素潜り』」
「えーとえーとえーと……『りんご酢』! あああしまった!?」
「弱っ。負けるの早すぎだろいくらなんでも」
「むぐぐぐ……」
「ていうか何だ? 最後が『す』で終わる言葉ばっかり選んでたみたいだけど。ひょっとしてあれか? なんか言わせたい言葉でもあったのか? 『す』で始まるやつで」
「!? い、いやそんなことはないぞ! 本当だ!」
「そっか。だったらいいんだけど」
「うむ、そうだ。本当だぞ、うん」
「ところでいきなりだけどさ」
「うむ?」
「『好き』だぜ俺。お前のこと」
「…………」
 キョトンとする神鳴沢世界。
 それから彼女は顔を真っ赤にして、
「優樹っ!」
「おう」
「貴殿さては全部わかっていたな!? わかっていてわたしを嵌めたな!?」
「まあいいじゃん。お前が言わせたかった言葉をちゃんと言っただろ?」
「それはそうだが! でもよくない! こういうのはぜんぜんよくないっ!」
「『好き』だぜ俺。お前のこと」
「っ!?」
 顔をさらに赤くして、それ以上は何も抗議できない神鳴沢世界だった。

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