魔弾の王とナゼナニ相談室
エレン
ミラ
[SDキャラ]
群鳩電軌

第1回 「ジスタート王国と戦姫の制度について」「『凍漣』? 『聖泉』? 別時空について」「竜技について」

ジスタート王国と戦姫の制度について
エレン

遙か昔、約三百年前のジスタートには五十を超える部族がいて、血で血を洗う戦乱のただ中にあったんだ

ミラ

有力な七つの部族をひとつにまとめこの地を平定してジスタートを興した一人の男がいたの。彼は七部族の族長の娘たちを妻にしたのだけど、彼女たちに竜具と『戦姫』の称号を与えたわ。自治権を持つ公国もね

エレン

七人の戦姫たちは国王に忠誠を誓い、公国を治めることになった。これが戦姫のはじまりだ

『凍漣』? 『聖泉』? 別時空について
ミラ

作者は『いくつかの違いから別の歴史を歩む物語』と説明しているわね。たとえば『凍漣』では、私のお母様やティグルのお父様はご存命なの。そして、お母様がとある理由でアルサスを訪れたことがきっかけで、十四歳の私とティグルが出会い、物語がはじまるというわけ(うっとりした顔で)

エレン

その貧相な胸が人並みにふくらむのだから、何がきっかけになるかわからないものだな。『聖泉』は、リム……私の副官のリムアリーシャが早くにティグルと出会っていたらという物語だ。二人はアスヴァール王国へ行って王女ギネヴィアを助けたり、よみがえった死者アルトリウスと戦ったりと、大暴れする

竜技について
エレン

言葉で説明すると難しいが……。竜具に選ばれた戦姫が、竜具を介して秘められた『力』を引きだし、人智を超えた現象を起こすのが竜技だ。私のアリファールは風の力を操ることができる。これで突風を起こしたり、風に乗って高く飛びあがったり、嵐を凝縮して叩きつけるようなこともできるわけだ

ミラ

私のラヴィアスは冷気を操るの。地面を凍りつかせたり、氷を生みだしたりできるのよ

エレン

私たち以外では、ソフィーのザートが光、サーシャのバルグレンが炎、エリザヴェータのヴァリツァイフが雷、オルガのムマが土、ヴァレンティナのエザンディスが空間というところだな。エザンディスの力がいちばんわかりにくい……

第2回 「誰がいちばん強い?」「ブリューヌとジスタート、その周辺国の信仰について」「アルシンとか、特殊ルビについて」

誰がいちばん強い?
エレン

サーシャだな。レグニーツァを治めているアレクサンドラ=アルシャーヴィンだ

ミラ

これについては満場一致でしょうね。以前、私とエレン、ソフィーの三人がかりで挑んだけどかなわなかったぐらいだもの

エレン

だが、サーシャはいま病に臥せっている……。一日も早く回復することを願うばかりだ

ミラ

サーシャを除く六人でとなると、誰になるかしらね

エレン

それはもちろん私だと言いたいところだが、実際どうだろうな

ミラ

あら、珍しく謙虚じゃない

エレン

おまえでもないことはたしかだがな。竜具の使い方次第で変わるていどの差しか、私たちにはない気がする

ブリューヌとジスタート、その周辺国の信仰について
エレン

ジスタートとブリューヌでは、神々の王ペルクナスをはじめとする十柱の神々を信仰している。だが、国が異なるのに信仰が同じというのは非常に珍しいんだ

ミラ

他国だと、アスヴァールでは始祖アルトリウスと、彼に仕えたという十二人の円卓の騎士が信仰されているわ。ザクスタンでは知恵の神ヴォータン、戦神テュールあたりが有名ね

エレン

ムオジネルはどうだ? 私はあの国にあまり詳しくなくてな

ミラ

私も、ワルフラーンという戦神が信仰されていることぐらいしか知らないわね。それから、知られている神々がすべてじゃないわ。ジスタートでも、地方へ行けばそこでしか知られていない神々がたくさんいるわよ

アルシンとか、特殊ルビについて
エレン

作者によると、『この世界と、そこに住む人々の生活をより味わってほしくて考えた』のだそうだ。『設定するのが楽しいから設定した』というのもだいぶあるようだが

ミラ

補足すると、スラヴ神話を参考にしているので、度量衡や用語もスラヴ神話圏とでもいうべき地域のものから拝借したということね

エレン

最初は国ごとに設定することも考えたみたいだが、さすがに煩雑になりすぎるからやめたらしい。ちなみに私たちの竜技については、最初はどこかの国の言葉で考えてみたが、長すぎたり語呂が悪すぎたりしたので、複数の単語を組みあわせた上でもじったそうだ

ミラ

造語だらけだものね。まあ、それも含めて楽しんでちょうだい

第3回 「第三の戦姫登場」「ティグルたちの誕生日について」「戦姫同士の交流について」

誰がいちばん強い?
ソフィー

あらあら、二人で何か楽しそうなことをやっているみたいね

エレン

おお、いいところに来たな、ソフィー。思ったより難しい話もあるので、ぜひ手伝ってくれ。そこにいるやつは役に立たないからな

ミラ

それはこちらの台詞よ。あなたが外れた方がはかどるんじゃないかしら

ソフィー

(竜具をかまえながら)喧嘩をしないといつも言ってるでしょう

エレン

け、喧嘩ではない……

ミラ

ち、ちょっとした意見の相違よ……。それより、ソフィーもいっしょにどう? 紅茶を淹れるわ

ソフィー

それじゃ、ちょっとお邪魔させてもらおうかしら。よろしくね

エレン

そういえば、ソフィー個人に対してこんな質問があるな。『ルーニエ以外の動物には好かれているんですか』。率直だな。ちなみに、ルーニエはうちで飼っている幼竜だ

ソフィー

それがねえ、あまり好かれないのよ。理由は何となくわかってるんだけど

ミラ

どんな理由?

ソフィー

可愛いからじっと見つめるでしょう。動きもつぶさに観察するでしょう。それがどうも警戒させてしまうみたいで

ミラ

それはそうでしょうね……

ソフィー

小さいころからそうなのよね。わたくしの祖母……おばあちゃんは黙って座っていても猫や鳥が寄ってくるようなひとで、うらやましかったわ。何度真似して失敗したか。今度、ティグルにこつを教わってみようかしら

エレン

なんでそこでティグルが出てくる……?

ソフィー

狩りのときのティグルってすごいのよ。相手をじっと観察しながら、気づかれずに必要な距離まで近づけるの。場合によっては素手でつかまえることもあるって。その技術からは学べることが多いんじゃないかと思って

ミラ

そうね。今度、私もティグルに教わってみようかしら

エレン

だ、だめだ! それは今度、私が教わる。その次はリム、もう予約が入ってる!

ティグルたちの誕生日について
ミラ

ないのよね、これが。どの季節に生まれたか、ぐらいはあるけど

ソフィー

作者によれば、最初に悩んだのは『どの国にも共通する暦があるだろうか?』、『暦があるとして一年を何日にするか』の二つだったの

エレン

それに、物語のはじまりが私とティグルの出会いだからな。表記をブリューヌ基準とジスタート基準のどちらにするかも迷ったらしい

ソフィー

それもあって、暦そのものの設定はしたけど、実際に書くのは季節と日数だけにしたのね

エレン

そこで、王族だけは誕生日があるが、それ以外は数え年……新年を迎えたらいっせいに年をとる形にしたわけだ

ミラ

ちなみに『凍漣』のコミカライズでは、必要性からあらためて暦を設定したわ。ティグル視点ということもあってブリューヌ暦○年という表記ね

戦姫同士の交流について
ソフィー

これはけっこう難しい問題で、どうしても自分の公国……領地の近い相手との交流を優先しがちになってしまうのよね

エレン

近い相手だと利害が衝突して、いやでも話しあう機会が増えるからな。一方で、遠い相手とは交流する必要性が薄い。興味を持ちにくいし、連絡をとりあうのもひと苦労だ

ミラ

だからといって、領地が遠い相手とまったく会わないということはないわ。新年を祝う太陽祭の時期に、王都で会うとかね。戦姫の持つ力を考えれば、定期的に集まって交流する機会を持つのが望ましいのでしょうけど

エレン

サーシャのように病に伏せている者もいるから難しいな。(ミラを見ながら)それに、気にくわないやつや揉めているやつとはあまり顔を合わせたくない

ミラ

(筆と紙を用意して)ライトメリッツの戦姫は感情を優先させる傾向が強く、ブリューヌの客将を滞在させるのにふさわしいとは思われない……

ソフィー

(エレンとミラを見ながら)せめて領地が近い相手とは仲良くありたいわね

第4回 「強さの秘訣について」「どうやったら大きくなるのか」「竜具の訓練について」

強さの秘訣について
サーシャ

秘訣?

エレン

うむ。私とリュドミラの二人がかりでも、私を含めた戦姫三人で挑んでも、サーシャにはかなわなかっただろう。どうしたらそのように強くなれるのかと思ってな

サーシャ

これといったことはとくに何もしていないよ

エレン

何かをやっているやつにかぎって、そういうことを言うんだ。私にまで隠すことはないだろう

サーシャ

本当に、何もしていないんだけど……。そうだね、僕が母に戦い方を教わり、十一のときに村を出て、旅をしていたことは前に話しただろう

エレン

ああ。それで、十五のときにバルグレンに出会ったんだったな

サーシャ

母の教えがよかったのと、よい旅ができたということじゃないかな。ひとりだったから、考えなければならないことも、やらなければならないことも多かったからね

エレン

それだけ……?

サーシャ

大事なことだよ。他に考えられるとしたら……もしかしたら、僕の母は凄腕の戦士だったのかもしれないね

エレン

やれやれ。まあ、サーシャがそう言うなら、そうだったのかもな

どうやったら大きくなるのか
オルガ

(無言でソフィーの胸を見つめている)

ソフィー

あら、どうしたの、オルガ

オルガ

どうしたらそんなに成長するのか、気になっている。騎馬の民にも、あなたほど大きな者はあまりいない

ソフィー

(背丈のことかしら)そうね、月並みだけど、よく食べて、よく動いて、よく笑って、よく眠る。そうすれば、自然と大きくなっていくんじゃないかしら

オルガ

(疑わしげな顔をしながら)食べたり、動いたりはしていると思う。食べものに何か違いがある気がする

ソフィー

それじゃ、これからわたくしとお昼をいっしょに食べに行く? おいしい羊肉の香草焼きを出すお店があるのよ

オルガ

(目を輝かせてうなずく)

ソフィー

それとね、わたくしはあなたのことが少しうらやましいと思っているのよ。あなたはこれから成長していって、少しずつティグルの背に追いついていくんだもの

竜具の訓練について
ミラ

この冬の出来事についてはだいたい聞いたわ。大変だったわね

リーザ

ありがとう。でも、すべては私の未熟さが招いたことですわ。それに、あらためてヴァリツァイフとわかりあえた気がして……。そんなふうに、よいこともあったと思っていますの

ミラ

(話題を変えた方がいいわね)。ところで、以前から少し気になっていたんだけど、竜具の訓練って、あなたはどうやっているの? 私のラヴィアスは槍だから、基本の型は確立されているし、師となるひとも数多くいるけど、あなたの鞭は違うでしょう

リーザ

ヴァリツァイフを握れば、漠然とだけど使い方を思い描くことができるし、歴代の『雷渦の閃姫』たちがそれぞれ基本の型を残しているから、それほど困ることはありませんのよ。こういうものは、他の戦姫のところにもあると思っていたのだけど

ミラ

言われてみれば、オルミュッツにもあるわね(私はお母様に教わっていたから、あまり気にしなかったけど)

リーザ

もっとも、戦姫によってだいぶ型が違いますし、中にはちょっと理解しがた……個性的な使い方をしていた戦姫もいるので、自分に合うものを見つけるのは少々大変ですけど

ミラ

ふうん。ちなみに、いちばん自分に合わないと思った型はどんなものだったの?

リーザ

そうね……。ヴァリツァイフの先端に鉄球をくくりつけて振りまわすものが……

ミラ

えっ

リーザ

私はやってませんわよ!?

第5回 「七つの公国の力関係について」「ソフィーとヴァレンティナがはじめて会ったときの話」「十の神々について。前編」

七つの公国の力関係について
ヴァレンティナ

私のオステローデがいちばん弱いですね

ミラ

嘘はやめなさい。どこが強い、どこが弱いといえるほど、七つの公国の間に大きな力の差はないわ。そうならないように陛下も目を配っておいでだもの

ヴァレンティナ

さすがは母、祖母、曾祖母が戦姫だったリュドミラですね。ええ、特定の戦姫が力を持ちすぎては均衡が崩れ、戦姫同士の対立を招いてしまいますから。それでも、やはり私のオステローデは他の公国にくらべて兵が弱く、目立った産業もないので弱いといっていいかと

ミラ

本当に兵が弱い国は、野盗や山賊が目立つものよ。あなたの国でそういう話は聞かないわね。それに、オステローデの材木は質がいいと聞いてるけど

ヴァレンティナ

あなたのオルミュッツからは遠い国のことなのに、よくご存じで

ミラ

他の公国について調べるのは戦姫として当然でしょう

ヴァレンティナ

ところで、リュドミラ。他の公国についての情報を交換しませんか? おたがいに有意義な取り引きができると思うのですが

ミラ

そういう話をすぐに持ちかけてくるところが信用できないのよ、あなたは……

ソフィーとヴァレンティナがはじめて会ったときの話
ヴァレンティナ

私たちは六年前に戦姫になったのでしたね

ソフィー

わたくしが十六歳、あなたは十七歳だったわね。わたくしたちと年齢の近い戦姫はサーシャだけ(当時十七歳)で、他は年長の戦姫ばかりだったわ。エレンも、ミラも、エリザヴェータも、オルガもまだ戦姫になっていなかった

ヴァレンティナ

ええ。戦姫になったばかりで、しかも年長者に囲まれて心細かった私は、ぜひあなたと仲良くなりたかったのですが、おたがいの公国が離れているせいでそれも難しく……

ソフィー

そうだったかしら。あなたはどの戦姫とも落ち着いて話していたと記憶しているけれど

ヴァレンティナ

それは乙女の見栄というものです、ソフィーヤ。あなたこそ、どの戦姫からも可愛がられていたと思いますが

ソフィー

そうね。ミラのお母様のスヴェトラーナ様からは、いっしょにムオジネルを攻めないかと何度も誘われたし、ブレスト公国はしょっちゅう羊の群れを暴走させて、こちらの領内の草木が食べられてしまったし

ヴァレンティナ

あなたも苦労したのですね

ソフィー

笑いたければ素直に笑いなさい。わたくしも対応しやすくなるわ(錫杖を鳴らしながら)

十の神々について。前編
ティッタ

ブリューヌとジスタートで信仰されている十の神々について……ですか?

エレン

ああ。物語も第5章まで来たしな。このあたりであらためて確認しておきたい。巫女としての修行をしていたおまえなら、私などより詳しいだろう?

ティッタ

わかりました。まずは天上神ペルクナスですね。神々の王とも呼ばれていて、神々の指導者のような存在です。天候を自在に操り、雷神としての性質も持っているとか。次は戦神トリグラフですが……

エレン

かつての私のように戦を生業とする傭兵や、騎士、兵士などに人気のある神だな

ティッタ

ほとんど説明されちゃいましたね。トリグラフは三つの顔を持ち、戦場をあまねく見渡して必ず勝利をつかむといわれています。次は、ティグル様が熱心に信仰している風と嵐の女神エリスです。狩人にはエリスを信仰する方が多いのですが、山では急な強風や風向きの変化が珍しくないし、森は霧が出るからだと、ティグル様がおっしゃってました

エレン

エリスは、船乗りにも信仰する者が多いとサーシャが言ってたな。次は富の神ダージでどうだ

ティッタ

商売をする方に人気の神ですね。それから、賭け事をするひともよくダージに祈りを捧げると、昔、バートランさんから聞いたことがあります

エレン

賭け事か。そういうのを好む人間にも、ダージは加護を与えるのかな?

ティッタ

あたしには何も言えませんが、おかしなことをしないで誠実に取り組むのなら、加護をくださるのではないでしょうか……。次は……

エレン

ヤリーロを頼む

ティッタ

え、ええ……。わかりました。ヤリーロは豊穣と愛欲の女神といわれていて、娼館の看板にそのお姿がよく描かれている方です

エレン

恥ずかしがる気持ちはわかるが、娼婦というのは傭兵以上に明日をも知れぬ身だ。彼女らにすがる女神がいるのは、いいことだと思うぞ

ティッタ

(はっとして)そ、そうですね! また、ヤリーロは豊穣という点から、妊娠や出産、それから田畑の実りにも加護を与えるといわれています。ただ、このあたりは大地母神モーシアと重なるので、どちらの加護が適切か、よく議論がされています

エレン

うん、勉強になった。半分まで来たところでひとまず休憩しようか

第6回 「十の神々について。後編」「竜の種類について」「地図の外の世界について」

十の神々について。後編
エレン

それでは、残り五柱の神について教えてもらおうか。頼むぞ、ティッタ先生

ティッタ

か、からかわないでください。ええと、まだ説明していないのは大地母神モーシア、名誉の神ラジガスト、家畜の神ヴォーロス、かまどの火の神スヴァルカス、最後に……ティル=ナ=ファですね

エレン

いやなら最後のだけはなしにしてもいいぞ

ティッタ

いえ、やります! まず、モーシアですが、大地母神と呼ばれることもある女神で、豊穣を司り、作物の実りや出産について加護を与えてくれるといわれています

エレン

そのへんはヤリーロと重なるな。違うところは?

ティッタ

糸紡ぎや料理、洗濯、掃除といった家事にも加護を与えてくれるところですね。モーシアの教えでは、ひとはどこで生まれ、どこへ行こうと、地を耕して生きるものであり、ひととして生きるために家事は欠かせないものであると

エレン

家事の苦手な私にはなかなか耳に痛い言葉だな。いずれはあるていど身につけなければならんだろうが

ティッタ

今度、簡単なものだけでもお教えしますよ。次に名誉の神ラジガストですが、約束ごとをするときに『ラジガストの名にかけて』と使われるように、法や約束を司ります。この神の像は、右手に両刃の斧を持ち、左手に羊皮紙を持った姿でつくられることが多いですね

エレン

約束を破ったら、その斧を振るうというわけか

ティッタ

それぐらい約束ごとはどんなものだろうと大事で、破ってはいけないということです。羊皮紙については、記録の大切さを訴えるものと考えられていますが、おたがいの合意があれば契約は何度でも結ぶことができるという意味だという話もありますね

エレン

柔軟だな。私としてはそちらの法が好みだ。家畜の神ヴォーロスについて頼む

ティッタ

羊飼いたちに信仰している者が多いといわれる神です。家畜と、家畜を大切にしている者たちを守護するといわれています

エレン

家畜を大事にしない者には何か罰を与えるのか?

ティッタ

羊をいじめる羊飼いを、羊に変身させたという話がいくつか伝わっています。あと、ヴォーロスに捧げられた神殿では、狼や熊除けのための鈴を売っています。このことから、ヴォーロスを鈴や音の神と呼ぶひともいるとか

エレン

ほう。今度、見かけたら覗いてみるか。かまどの火の神スヴァルカスは?

ティッタ

そのままですが、かまどと火を守る神です。火ということで、鍛冶師にもスヴァルカスを信仰しているひとが少なくないそうですよ。かまどや鍛冶場をきれいにしていなかったら、スヴァルカスが怒って火を起こすといわれていますね

エレン

額面通りに受けとったら迷惑な神だが、つまり、神が怒るぞと脅す形で、掃除を徹底させるわけか。火の扱いは怖いからな

ティッタ

そういうことですね。最後にティル=ナ=ファですが、十柱でいちばんの嫌われもので、何を考えているかよくわからないし、ティグルさまをからかうし、助けるならもっとちゃんと助けてくれればいいのに、ひとの身体を何度も乗っ取らないでほしいと……

エレン

説明ではなくて苦情になってるぞ

竜の種類について
ミラ

たしかに一度、整理しておいた方がいいかもね。もともと野生の竜は目にすることすら非常に珍しいといわれるほどだけど、私たちは何度も戦うことになったし

ソフィー

そうね。それじゃ、まずは地竜(スロー)から。体格こそトカゲに似ているけれど、身体は見上げるほど大きく、力も強く、獰猛で恐ろしい竜よ。鱗も驚くほど硬いの。山奥などで竜を見たという昔の記録に出てくるのは、たいていこの竜ね

ミラ

それでも、他の竜にくらべれば相手をしやすいけどね。飛竜(ヴィーフル)については私が説明しましょうか。巨大な翼を持った竜よ。顔は細長くて、トカゲというより、ある種の鳥に近いわ。地竜にくらべて細身だけど、力が弱いわけじゃないし、翼の羽ばたきで突風を起こされると容易に近づけないの。ほんと、飛ばれると厄介ね

ソフィー

『凍漣』ではザイアン卿が駆っていたけど、あそこまで成長した竜は本来、人間に懐かないらしいわ。あの飛竜がザイアン卿に従うようになったのは、いくつかの理由が重なった結果ということだけど、ザイアン卿の努力もそのひとつというのが作者の裏話ね

ミラ

次は、火竜(プラーニ)。長い体毛に覆われていて、炎を吐く竜ね。おもに灰や炭、鉱物を食べているといわれていて、炎で獲物を焼き尽くして、それから食べるそうよ。地竜や飛竜にくらべると、この竜を見たという記録はほとんどないぐらいね。記録してくれたひとたちには感謝しかないわ

ソフィー

あなたは火竜と二度も戦うことになったものね。次は海竜(バダヴァ)にしましょうか。蛇を巨大にしたような姿なのだけど、他の竜と違って鱗がなく、顔と背は黒くて、お腹は対照的に白いの。海の中を自在に泳ぎまわる恐ろしい存在だったわ

ミラ

海の上という、こちらが不自由な状況で襲われると、つらいわね。私でもまともに戦えるかどうか……。最後は双頭竜(ガラ・ドヴァ)。名前の通り、二つの頭部を持つ竜よ。他の竜よりも二回りは大きくて、その分、力も速さも段違いだわ。同じ竜ですら襲って殺すといわれているの

ソフィー

本当によく戦って勝てたわね。ちなみに、設定では他に氷竜(ラヴィナ)や砂竜(スメルチ)などもいたのだけど、出す機会がなくて設定だけで終わったとは作者の言葉よ。それでは最後にルーニエちゃんを……

ミラ

幼い竜は、だいたい体長が四チェート(約四十センチ)前後で、十年から二十年かけて少しずつ大きくなっていくといわれているわ。その間に鱗は何度も生え変わって、徐々に硬くなっていくんですって。ルーニエも、いつか見上げるほどに大きくなるのでしょうね

ソフィー

わたくしが説明しようと思ったのに……

地図の外の世界について
オルガ

聞きたいことが

リーザ

あなたが私に? 珍しいですわね

オルガ

他の戦姫より暇そうだったから

リーザ

失礼ね! 私は私で忙しいんですのよ!?

オルガ

ティグルや他の戦姫が、エリザヴェータは頼れると

リーザ

仕方ありませんわね……。何を知りたいんですの?

オルガ

(地図を見せて)この地図の外……東西南北がどうなっているのか、知りたい

リーザ

わかっていないことの方が多いから、半分ぐらいは伝聞の類になりますわよ。それでもよろしくて?

オルガ

(うなずく)

リーザ

まず東ですけど、草原や砂漠、荒野がどこまでも広がっていると聞いたことがありますわ。でも、数十日かけて砂漠や荒野を抜けた先には、ジスタートやブリューヌに劣らない大きな国があるとか。ときどき、私たちの話に出てくるヤーファもその国の近くにあると聞いたことがありますわ。砂漠や荒野には小さな都市があるとも、滅んだ都市があるともいわれているけれど、これらについてはあなたのような騎馬の民の方が詳しいのではなくて?

オルガ

たしかに、湖や川のそばに小さな都市があるという話は聞いたことがある。実際に見たことはないけれど

リーザ

次に南ですが、このジスタートやブリューヌのある大陸と同じような大陸があるそうですわ。キュレネーやイフリキア、カル=ハダシュトといった王国があり、一部の国はブリューヌやムオジネルと交易を行っているとか。ジスタートも南の海に出られるようになったから、遠からず、それらの国と交流することになるでしょうね

オルガ

西は?

リーザ

ザクスタンやアスヴァールより西ということでしょう。そちらはさっぱりですわ。陸地は続いているけれど、いま挙げた二国がこちらに目を向けているということは、領土を広げようと思うほどのものすらないと考えていいでしょうけど

オルガ

何もないというのは、かえって気になる

リーザ

それならアスヴァールにでも聞いてみなさいな。貸しをつくったのでしょう? おとぎ話なら、悪い魔法使いが封印されているという話でも出てきそうだけど

オルガ

子供っぽい

リーザ

背伸びしている子供にはちょうどいいのではなくて? 最後は北ね。残念だけど、こちらも不明。ひどく寒くて、氷の塊が流れてくるような海がどこまでも広がっているという話ですわ。ジスタートの北にかぎっていえば、複数の島に蛮族が棲んでいるということですけど

オルガ

寒いのは苦手……

リーザ

私も好きではありませんわ。地図の外に目を向けるのもいいことだとは思うけれど、地図の中でわかっていないことはまだまだ多い。私やあなたはそちらからでもいいと思うの