読子だけはどんなキャラクターかわからなかった

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まずは10年ぶりの新刊発売おめでとうございます。
倉田
なんだか今回、あまりに温かくみんなが迎えてくれるので、ありがたいと思う反面「なんで!?」という疑問も。もっと怒られると思ってたんだけど。
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怒られるっていったい誰に。
倉田
それはもう読者とか編集者といった皆さまから。ただ正直な話、10年も経っているから、今さら怒るような人は離れてしまっているんだろうなというのはある。きっともう他にいい人を見つけたんだろうと。
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確かに、ここまでついてきてくれている読者なら、最後まで(小説『R.O.D』は第十三巻で完結予定)つきあってくれそうな気はしますね。正直な話、第十一巻を書き上げた時は、いつくらいに次を出すつもりでいたんですか?
倉田
あまりよく覚えてないけれど、十一巻の時点で舞台は整ったし、キャラクターも揃ったから、あとは決着さえつけば終わる、かかっても一~二年くらいと見込んでいたんじゃないかな。これだけ長くかかったのは物語の終わらせ方が、なかなか見つからなかったのが一番大きな原因だと思う。小説版の『R.O.D』に関しては、大きな流れとか大事な場面はいちおう前もって考えておくけど、細かい部分は実際に書きながら考える。おまけにその段階であとで使えそうな、盛り上がりそうなネタを思いついたら、無条件で取り込んでいくという敬愛する週刊少年ジャンプの連載漫画のスタイルで書き続けていたら、広げた風呂敷がとんでもないことになってて、それをどう畳んだらキレイに収まるか、思いつくのに5年かかりました。
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第十二巻購入特典の「読王」でも完結までのプロットができたのが5年前、そこから十二巻の執筆に4年かかったと書かれていますね。
倉田
要は、その場その場の面白さを取っていった結果、大きなツケが回ってきて、そのツケを返す見積もりを出すのに、10年かかりましたという話なんですよ。他の人がどこまで先を考えてシリーズものを書いているのかわからないけれど、こと『R.O.D』については、僕はかなりの部分を思いつきで書いているし、それをまとめるのに苦労している様を隠したくはない。書くのに4年かかったのは、しばらく書いていないうちに、読子というキャラクターがわからなくなったという点が大きいですね。読子のできることやできないこと、読子だったらこうする、こうはしないだろうというのが、なかなか掴めなくて……。
――
ブランクがあって、というのはわかりますが、それは読子だけに限ってのことなのですか?
倉田
読子だけです。読子以外はモデルとなる人物やキャラクターがいるので、その辺りはブレない。どんな状況になったら、こうするというのがすぐわかるんです。ただ読子を書くという点では十巻の外伝の時が一番難しかったかもしれない。あれは本編から外れた作品だったから、性格や行動をどこまでズラしていいのか、自分でも正解が見えなかった。角川映画の金田一シリーズで『犬神家の一族』とか『獄門島』の中に、いきなり大林宣彦監督の『金田一耕助の冒険』が来るようなものだから。
――
外伝というよりセルフパロディに近いということでしょうか?
倉田
実際、十巻を書いてから十一巻が出るまでも1年半かかってるし、あの外伝の影響もあったかもしれない。

シリーズが終わっても読子は書き続けたい

――
先ほど「あとで使えそうな、盛り上がりそうなネタを思いついたら、無条件で取り込んでいく」と仰っていましたが、具体的にはどういったネタでしょうか。
倉田
いや、ほとんどそうですよ。そもそもイギリスと中国が戦うなんて、三巻を書くまでは考えてなかったし。
――
読仙社も考えてなかったんですか?
倉田
三巻以降は全部後付けです。初めに考えていたのは読子とドニー・ナカジマ周辺のことくらい。もともとバトルがあるとしても、第一巻とかOVA版くらいのスケールのもので、あとは『ビブリア古書堂の事件手帖』みたいな本にまつわる、ハートウォームな話を続けていくつもりだったので。
――
それがなぜ、こんな壮大なお話に?
倉田
それはもうさっき言った少年ジャンプ精神のせいですよ。一応第二巻でジェントルメンとジョーカーが、これから大きな作戦が始まるみたいな前フリをしていたけど、あの時点では書いてる自分も「ああ、なにか始まるんだろうな」くらいにしか考えてなかったし、グーテンベルク・ペーパーだってテレビスペシャル『ルパン三世』の「ヘミングウェイ・ペーパーの謎」が好きだったから「こっちは印刷のグーテンベルクで!」みたいなノリで出しただけで、当時内容に関してはなにも考えていなかった。そこでなにか含んでるっぽいことをキャラクターに言わせて、それに継ぎ足し継ぎ足しで話を進めるうちに、気がつけばこんな有様に……本当にシリーズの最初の頃は、勢いだけで書いてましたね。インターネットも使ってなかったから、細かい調べ物もあまりできなくて。一番笑ったのは、三巻にクライブ・カッスラーという作家が出てくるんですけど、『タイタニックを引き揚げろ』とか書いてる同名の作家が実在してるんです。これはパロディでもオマージュでもなくて、僕も当時読んでたはずなんだけど書いている時はすっかりその存在も忘れて書いちゃった。あと二巻に出てくる稀覯本を集めたナルニアコレクションって、どう考えても『ナルニア国物語』だよなあと、後から気がついたり……実はこういったミスも結構多いんですけど、あまり誰からも突っ込まれないので、自分から言っておきます。
――
なるほど。それでは最後に最終巻となる第十三巻は、いつ頃になる見込みでしょうか。
倉田
出ますよ、きっと2017年中には。それが1月1日なのか、12月31日なのかはわからないけれど。
――
そんな他人事みたいな。
倉田
まあこれまでと違って、もう最後までのプロットもありますし、さすがにあと10年待ってもらうわけにはいかないだろうな、と。10年経ったら僕も60ですからね。少なくとも、このシリーズは四十代のうちに完結させておきたい。ただ、もし許してもらえるのであれば、このシリーズが終わっても、もうちょっとだけ読子というキャラクターを書き続けていきたいという気持ちはあるんです。
――
それは新しい『R.O.D』シリーズということでしょうか?
倉田
“READ OR DIE”の“DIE”ではなくなるかもしれませんけど。今回のシリーズでは、やたらとスケールが大きくなってしまったので、どこか書かせてくれるところがあれば次は世界の運命を賭けた戦いではなく、本屋さんをうろうろまわったり、初めてKindleを買ったらどうするとか、そういったダラダラと本を読んでる読子の話が書きたいですね。まあ書くところがなかったら、ウチ(スタジオオルフェ)のホームページで細々とやっていきますんで。
ありがとうございました。