『ユリシーズ』のルーツは『ジョジョ』と宇月原晴明作品!?

───最初に読んで、「戦闘がスピーディで迫力があって非常に面白い!」と感じました。
春日みかげ(以下、春日):ありがとうございます。これは小説ですが、はじめに自分の頭の中で漫画なり、映像になっています。プロット(物語の設計図)の段階では映像でドバーッて流れていて、それを字として書き留めている感覚ですね。もともと漫画家志望だったんですが、可愛い女の子が描けなくて諦めまして。でもライトノベルを書けば、挿絵は上手い人が描いてくれる。これだ!と。
(一同笑い)
春日:バトルでもパワーだけじゃなく、モンモランシが機転で窮地を脱する頭脳戦は完全に『ジョジョ』リスペクトで。スタンドバトルといえば頭脳バトル、それを目指しました。そして能力自体を極力シンプルな、すごくわかりやすい形にしています。
───『ジョジョの奇妙な冒険』が『ユリシーズ』の原点ですか。
春日:最初の発想は、「『ジョジョの奇妙な冒険』のスタンドバトルを中世の合戦でやる」という事だったんですが、宇月原晴明先生の『聚楽 太閤の錬金窟(グロッタ)』(新潮社・新潮文庫)という作品にも色濃く影響されています。「秀吉政権の時代、聚楽第の下に錬金術工房があって、そこに異端の錬金術士が南蛮から渡ってきて●●●●と組んで日本のジャンヌ・ダルクである●●●●を再生しようとする」って、凄いあらすじでしょう。しかもこれで、辻褄が合っているんですよ。そこから戦国要素を抜いて、ジャンヌ・ダルクと中世の錬金術だけを残して、わかりやすくしたという感じですね。
春日は宇月原晴明先生の大ファンで、自分の作品の多くに宇月原先生か京極夏彦先生の京極堂シリーズのオマージュが入っています。どちらも歴史をパズルのピースみたいに合わせていって、どこまでが史実で、どこが創作なのかわからないような感じで組み立てていく。『織田信奈の野望』も、『信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス』(宇月原晴明著 新潮社・新潮文庫)の「信長が両性具有だった」という設定を見て「これが女の子だったら」って思ったのが最初の着眼点ですし。
───ええっ! それは大胆な内容ですね。
春日:宇月原晴明先生の作品には、古代に天から降ってきた石を巡って、錬金術やらいろんな要素が入り混じって、正規の歴史の裏で戦っている。そういう石にまつわる世界観が凄く好きで、『ジョジョ』でも第2部でエイジャの赤石を巡って戦っていますし、それを『ユリシーズ』でもやっています。
───それで賢者の石の取り合いになっているんですね。他にこだわりは?
春日:史実ではリッシュモンが最終的にこの百年戦争を終わらせた英雄なんですけど、ブルターニュの騎士だったリッシュモンは、ブルターニュのフランスへの併合に反対していたのでフランスの歴史から抹殺されたんですね。しかもブルターニュ公国はリッシュモンの死後、フランスに併合されて消滅してしまいました。今回はそんな不遇な騎士のリッシュモンを書きたかったんです。
───1巻冒頭ではリッシュモンをはじめ、みんなとたちみんなが仲良くしていて、いい雰囲気で始まります。
春日:この学園編はいわばゲームのチュートリアル部分で、人間関係や戦争の背景をわかりやすく伝えるパート……なんですが、書いていて楽しくて、これだけで一冊やりたかったくらいです。ですがそうするとジャンヌが出てくるのが、2巻になってしまうので……(笑)
担当編集:もともとフランスの貴族がイングランドに流れていって王族になって、いつのまにかイングランドがフランスに攻めてきている、さらにフランスの中でも内部分裂しているっていう背景がわかりづらい。それが学園編のおかげで物語の入り方としてものすごく優しくなってるし、広がっていると思います。
春日:イングランドとフランスも当時としては侵略戦争じゃなくて、どっちが本流かという本家vs元祖争いをやっているだけだったのが、ジャンヌが歴史に登場してきたあたりから両国の人々の意識が変わってきて、完全に別々の国になるっていう流れです。ヨーロッパ史って日本の戦国と比べるとマイナーなので、歴史の解説が入ってしまうのが苦労します。毛利!武田!っていうと簡単ですけど、ブルターニュとかブルゴーニュとかいってもピンと来ないので。あと、同じ名前の人物が多すぎて混乱しそうになります。シャルルとかジャンとかジャンヌとか。日本の武将だと、基本は二文字名で、一文字だけ親から継いで一文字は変えていくんですが。
───ジャンヌを描いた作品は、普通に侵略戦争をやっているという単純化して描いているものが多いです。
春日:はい。なので同じパターンでやってもしょうがないのかなと。中国も秦の始皇帝が統一するまでは「中国」という国家概念がなかったんです。織田信長も、各国バラバラなのがデフォルトだったのを統一政権を作ろうとすることで、「日本」という国の意識ができあがっていった。ヨーロッパでは逆に、イングランドとフランスが百年戦争によって切り離されていって、国家の概念が「統一」から「複数併存」に書き換えられていくという過程をやりたかった。
───なるほど。
担当編集:歴史といえば、実は『ユリシーズ』って、賢者の石にまつわるサーガ(伝説)から切り取った1つのエピソードなんです。シュメール時代の話から始まって、キリストやアーサー王、第2次世界大戦のナチスドイツくらいまで、壮大な長い歴史があって、ちゃんと年表もあるそうなんです。
春日:はい、日本編は「義経がメインで、アスタロトが烏天狗で鞍馬寺にいる」みたいな。ナチスドイツはわざわざロンギヌスの槍を探しに行ったり、史実でもいろいろやっていましたから想像が膨らみます。
───『ユリシーズ』は宗教観も強くて、これも春日先生の宗教観が出ているんでしょうか。
担当編集:中世なのでカトリック信仰の力が強い時代なんですけど、どちらかと言ったら、それ以前の異教のほうに寄せています。具体的にはケルト系の妖精など、土着の神々の末裔を重点的に描いています。妖精族はキリスト教が入ってくる以前にはヨーロッパにいた神々だったんですが、カトリックが力を持つにつれて、妖精の成れの果てみたいな扱いになってきて、魔族ということで駆除対象にされちゃったり……ジャンヌが裁判にかけられると、妖精と仲良くしていたところが引っかかるわけです。
妖精をフィーチャーして天使を出さない事にしたのは、天使を出すとカトリックの世界の話になっちゃうからですね。創作ファンタジーは天使vs悪魔システムが多くて、それだと善悪の二元論になっちゃうんですけど、歴史を紐解いていくと、キリスト教が来る前のヨーロッパは土着の神々がいる多神教の世界で、そういうのを描きたかったんです。
───妖精風呂がお好きとのことですが、本編では妖精さんは虐殺されたりと不遇です。
春日:中世ヨーロッパって、本当は村人が虐殺されたり、人間が大量に拷問される時代なんですが、苦手なので書きたくないんです。けど、一切そういう要素を排除しちゃうと歴史ものとしてはちょっとどうかなと……ある意味野蛮な時代だったというのは表現したいので、人間の代わりに妖精さんに死んでもらうという……妖精さん、申し訳ないです。
───『ユリシーズ』で百年戦争に興味をもった読者に、おすすめの本はありますか?
春日:漫画だとトミイ大塚先生の『ホークウッド』(コミックフラッパー)が面白いです。小説では佐藤賢一先生の 『双頭の鷲』(新潮社)ですね。どちらも、ジャンヌが出てくる以前の百年戦争の前半戦を描いています。
あとは『聖女ジャンヌと悪魔ジル』(ミシェル・トゥルニエ)という小説は、ジル・ド・レが捕らわれたジャンヌを救いに行ったのに結局ジャンヌが焼き殺されちゃって闇堕ちするって話で、たぶん実際の史実もそういう感じだったんだろうなあって、心の中で想像を膨らませています。
ゲームだとPSPで『ジャンヌ・ダルク』(レベルファイブ)というシミュレーションRPGがありまして、あのジル・ド・レはかっこ良くて、でもラ・イルがたしかライオンになっていましたよね? 人間じゃないじゃん、獣人じゃんって(笑)
それとデビヴィッド・ボウイの『美女と野獣』という曲がモンモランシのイメージになっていて、史実通りにいくと、どんどん魔王にしかなっていかないっていうキツイ設定ですね……。
───ライトノベルじゃなくなってきますね。
春日:最初は青年向けを想定していたので、人間のダークな部分を描こうと意識していました。少年向けだったら主人公のルフィは絶対に闇堕ちはしませんが、青年向けならガッツとかアーカードみたいに漆黒の殺意みたいなものが燃えている。そういう善悪両方を持っていて、葛藤している主人公がモンモランシなんです。
───しかしモンモランシは3巻までの段階ではハーレム状態ですから、闇堕ちはなさそうです。
春日:ライトノベルの主人公が鈍感問題ってありますけど、この作品の場合は、モンモランシはああいう生育環境だったのでまだ正常な恋愛感が抱けなくて、そういう分野については、子供のメンタリティなんで、あれくらいモテても本人はピンときてないんです。
───年齢はいくつなんですか?
春日:18、9歳くらいです。でも第2次成長期をひとりで錬金術だけで過ごしていて、友達はアスタロトだけだったので、子供の時に時間が止まっているピーターパンみたいな存在になっています。
モンモランシとジャンヌ、アスタロトの3人組は、ピーターパンとウェンディ、ティンカー・ベルになぞらえています。この3人は時間が止まっていて、ジャンヌの最初のモデルは『ポーの一族』のメリーベルっていう、成長しないずっと少女のままの女の子です。
───モンモランシは周りの人と関連性を築いて、ようやくまた心が成長してきていると。
春日:はい。モンモランシは頭は良いんですけど妹が死んだところで心が止まっちゃっている。祖父が女の子をどんどんさらってきて、モンモランシにあてがうんだけど次々と死ぬのも史実のエピソードです。そんなモンモランシはジャンヌと出会ってから、やっと時間が動き出したんです。でもヒロインたちは7年経っていて恋愛する年齢になっているので、モンモランシと女の子たちの間にはギャップがあって、なかなかフラグが立たないことに(笑) 
───「モンモランシがジャンヌにエリクシルを与える方法……ロリとキス」なるほど、合理的な手段だと。
春日:ロリとキスって……(苦笑) 最初からモンモランシは吸血鬼として出てくる予定だったんですが、血が苦手なので、吸血以外で体液を交換出来る方法を考えた結果なんです。エリクシルを空気に触れさせてはダメというのは、実際の錬金術でも、例えばファウストに出てくるホムンクルスは空気に触れさせないようにケースに入れて培養しなくちゃいけないのと原理は一緒です。
モンモランシも3巻では血を吸っているんですが、本当に注射とか苦手で……じゃあダークファンタジー書くなって話ですが。
担当編集:妖精、がつがつ殺しているじゃないですか。
春日:妖精さんの血は、人間の血とたぶん色が違うし大丈夫です。
担当編集:ヒドイ(笑)

どこまでがホントで、どこからがウソ? 『ユリシーズ』の創作と史実のピースが複雑に絡みあっている件

───本作は史実とフィクションのさじ加減が難しそうです。
春日:例えば本当にリアルな甲冑にしちゃうと、地味だし姫騎士がかわいくない。とくに頭からすっぽり鎖段平みたいなのは見栄えがしませんよね。かといって完全にビキニアーマー化しちゃうと、歴史モノのニュアンスがなくなっちゃうので、その間をどうするかと悩んで、妥協点としてジャンヌはお腹を出したり、みたいな(笑)
担当編集:科学ラインがどこにあるのか。「現実はこうなんだけど、ウチはこのくらいにしたい」っていう、ウソをつき過ぎない範囲で修正を加えてます。例えばラ・イルの銃は火縄銃なんですが、銃身はどこまで短くできるか、発射機構をどうするかっていうのはメロントマリさんとも悩みました。最初は『HELLSING』のリップヴァーンウィンクルの銃みたいなのを描いてくださったんですが、それだと100年くらい未来なんですよね。なので原始的にしてくれって言ったんですが、史実だともっと原始的な筒みたいで絵面的に良くないから……みたいな試行錯誤の結果、こうなりました。
担当編集:このデザインが決まったら、他の甲冑も「このくらいのハッタリまではOK」っていうコンセンサスが取れるようになりましたね。
※ここから先は、1巻~3巻の重大なネタバレを含みます。読了後に御覧ください。

史実は小説より奇なり? 面白すぎて信じてもらえない人物たち

───お気に入りのシーンはどこでしょうか。
春日:2巻の『ベルセルク』の蝕的なシーンでしょうか。執筆していて盛り上がりすぎて、「やばいモンモランシが止められなくなった!どうしよう」みたいな。
担当編集:『ベルセルク』って言っちゃいましたね(笑) 私は1巻の序盤で、橋の上でみんなが誓うシーン。ここが、モンモランシたちの一番幸せなひとときなんだろうなって。
春日:鷹の団の黄金時代の頃のような。
担当編集:ほんと隠す気がないですね(笑)
春日:『ジョジョ』や宇月原晴明先生の作品のほか、他にも三浦建太郎先生の『ベルセルク』や平野耕太先生の『HELLSING』の要素もごちゃまぜになっています。モンモランシが最初に棺桶を引きずってきているのもその名残です。ちなみに初稿では、棺桶を引きずっているモンモランシがドンレミ村でジャンヌのお父さんたちに捕まって河に流されて、ジャンヌのいるところに流れ着くっていう冒頭だったんですがボツになりました。
担当編集:桃太郎か!(笑)
───ニコラ・フラメルは重要人物っぽいんですけど、再登場はあるのでしょうか?
春日:同時代人ですし、アスタロトの知らない知識まで握っていますし。映画『ハリーポッターと賢者の石』では名前しか出てこなかったけど、こちらでは出てきますよ。伝説によると賢者の石を手に入れて、長生きしたって噂があります。実際にはパリ陥落前後くらいに死んでいるらしいんですが、いろんな連中が賢者の石を作る方法がどこかに隠されているはずだってことでフラメルの家や墓を調べたんですが、遺体も何も見つからなかったそうです。
担当編集:この人だけが賢者の石の錬成に成功したって歴史上言われているんですよね。
春日:はい、みんなが成功したって信じているのは、金をたくさん持っていたからなんですよ。それがどこから出てくるのかって話になって、当時の人達がそう噂していたんです。
担当編集:一番ビックリした史実ネタが、ニコラ・フラメルが古本をやってるって描写があるんですが、今でもちゃんとパリにフラメルの建てた家があるんですよ。今は観光地兼レストランになってるらしいんですけど。
春日:ニコラ・フラメルはお金持ちで建物をパリのあちこちに建てていて、今でも1軒だけ残っているのがそこなんですが、しかもその前が『モンモランシ通り』っていう(笑)
───うわ、出来過ぎなくらいですね!
春日:このモンモランシじゃなくて、別のモンモランシの名前らしいんですけど、面白い偶然ですよね。
───他に史実を絡めた設定やエピソードはありますか?
春日:フィリップが結成した金羊毛騎士団(きんようもうきしだん)というのも史実です。32人のユリスというのは創作ですが(笑) それに3巻で登場する『ガーター騎士団』や『ドラゴン騎士団』も実在します。
───本当ですか! それはさすがに創作かと思っていました。
春日:ガーター騎士団はエドワード三世とその息子のエドワード黒太子が結成した史実の軍隊です。女の子が、太ももにガーター付けていたのはウソですけど、貴婦人のガーターを飾るっていうのは本当です。
───どこまでが創作でどこが史実か、わからなくなってきました。
春日:そうですね。シュメール神話のパートがぜんぶほんとうに神話として現存しているものをベースにしていると担当編集者に言っても「嘘でしょう、あなたの創作でしょう」となかなか信じてもらえなかったり……『ユリシーズ』は史実から大量にピースを拾ってきてパネルにうまく組み込んだつもりなんですけど、うまく組み込みすぎたといいますか、辻褄が合いすぎていて全部作りものとしても読めちゃうんです(汗)
───不自然なところがまったくないですね。
春日:言われなきゃ、気が付きませんよね。シャルロットの過去もほぼ本当にあったことで、お母さんが浮気したり、お父さんの王様が精神状態をやられちゃった事も史実。フィリップのお父さんと浮気した話も、当時の噂として記録に残っています。
担当編集:イングランド軍は弓を使っていて、フランス軍は正面から突撃だけっていうのも史実どおりなんですよね? 春日:ええ、ようするにフランス軍は騎士道ごっこで戦っていたんですけど、イングランド軍は知ったことかって弓でピピピピって、その繰り返しです。フランス側は騎士道精神一直線で、まったく懲りなくて、ようするにゲーム感覚だったのが百年戦争だったんです。
特にフランス側は王様(ジャン2世)が浮き世離れした人で、イングランド側に人質として引き渡した捕虜が脱走してきた時に、自ら「申し訳ない、身代わりとして自分が人質になる」って言いだして、自分から捕まりに行っちゃう。で、王位を継いだシャルル5世が身代金は払わんって言って(笑)、捕虜になったまま死んだんですよ。国民から人気はあったみたいですが、こんなふうに騎士道精神を貫いていても戦争には勝てませんよね。

悲劇の乙女・史実だと鬱エンドが待っているけれど……

───3巻ではファストルフが新登場して、ずいぶんと目立っていました。小さいコンプレックスも可愛いです。
春日:ファストルフはニシン樽をバリケードに用いた「ニシンの戦い」でフランスに勝利した実在の人物なんですが、図太かったらしく、「パテーの戦い」でやらかして以後もしっかり生き続けました。お金持ちになったそうです。「パテー」で捕虜になったあと、解放されてすでに絶望的となっていた対フランス戦の戦場で戦士として散っていったタルボットとは好対照だったようです。背が小さいコンプレックスなどは書く段階で肉付けしていきました。
グラスデールも実在しますよ。オルレアンでジャンヌと戦ってロワール河で溺れ死んだっていう逸話です。でもヴァンパイア・ハンターだったというのは創作で、奥さんのエピソードも創作ですね。
───なるほど。編集さんは3巻のお気に入りシーンはどこですか?
担当編集:ベドフォード公が、お兄さんのことを思い起こす一番最初のシーンがかなり好きです。かなりの悪役が、ものすごく人間臭い。敵役はいるけど、悪役はいない。敵対する側にもそれぞれの事情や思惑があったり、兄弟の情念を描いているところは、春日さんのキャラクター描写のうまさだと感心します。 3巻は一番人間ドラマが激しく動いていて、ある意味ジャンヌ・ダルクの話の転換点になっているところです。1巻と2巻で徐々にでてきた対立や不穏な空気があからさまになってしまうのが3巻で、そしてリッシュモンの大活躍!!
春日:リッシュモンは「よーいどん!」で暴走しているじゃないですか。やっぱりかと(笑) もうアスタロトが天丼ネタになってますよね、「抜いちゃだめ、抜いちゃだめ」って。
担当編集:ダチョウ倶楽部の「押すな押すな」って前フリみたいな。
春日:アスタルトはあれを、神話の時代からアーサー王伝説の時も、何千年も繰り返しているんですよ。で、毎回失敗している。だからアスタロトはC.C.(シーツー アニメ『コードギアス』の劇中で出てくる不老不死の少女)みたいにちょっと醒めているのかもしれません。
───リッシュモンといえば、3巻のキスは悲しかったですね。
春日:モンモランシがあんなことをやっているからリッシュモンが暴走するわけですよね。やっぱりハーレムに鈍い主人公っていうのは、劇画調に書くと歴史がおもいっきり歪むような影響力があって大変です。
───パワーアップしたリッシュモンが4巻で化ける存在になりそうですか?
春日:史実通りにいくと、ジャンヌが死ぬまで出番がないんです。ジャンヌが死んだ後に、やっぱりリッシュモンがいないとダメだって元帥に復帰するので、モンモランシが裁判で死刑になるのとリッシュモンが返り咲くのがほぼ入れ違いになりますが、もちろん『ユリシーズ』ではリッシュモンはこれからも物語の鍵を握るキャラクターとしても活躍します。
───他にも4巻ではどういう展開になりそうですか?
春日:3巻でシャルロット(史実ではシャルル)が戴冠したところで、史実だとジャンヌは用済みになって切り捨てられますからね……。シャルロットはブルゴーニュと同盟して和平交渉で戦争を終わらせたがっていたので、イケイケの武官が邪魔になるんです。武官のラ・イルやモンモランシが担いでいるのがジャンヌなので、ジャンヌにいなくなってもらわないと困るという状況に。
なのでモンモランシとラ・イルはジャンヌ奪回のためにルーアンに攻めこむんですけど、シャルロット(シャルル)が武闘派を切り捨てて金も兵も出さないので、結局兵力が足りなくて負けて、ジャンヌは殺されてしまう。で、モンモランシは闇堕ち……。
担当編集:史実だとそうなんでしょうけど、改めて聞くと救いようがない話ですね。自分としてはクエンティン・タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』並の超展開を期待しているんですが。
春日:どのような終わり方をするのかはまだ固まっていませんが、史実そのままの鬱エンドにはせず、史実との整合性を合わせながらもモンモランシたちが「運命」と戦う生き様の先に希望を見いだせるような結末にしたいと思っています。楽しみにしていてください。でも……タランティーノ的な超展開にも限度があって、たとえば最終巻に突然フラメンコ星人っぽい宇宙人が出てきて「われわれはシュメール星人だ、われわれの入植地である地球に貸し出していた賢者の石を回収しにきた」と言いだしてジャンヌたち地球人に宣戦布告し、地球の危機が訪れたために英仏ユリス連合軍が結成され、百年戦争は終結する……とかそういう展開は面白いけど怒られるでしょうしね(汗)。歴史と創作との摺り合わせのバランスを保ちながら、ラストまで書き進めたいと思っています。