集英社ライトノベル新人賞
第13回(2023年)
IP小説部門 #1
最終選考委員講評

(2024.3.19)

新木伸 先生 総評

IP小説部門の選考も、今回で四回目となる。
 アイデアを測る賞と銘打ちつつ、各回、実際に測っているのは、主人公のモチベであったりする。
 まあ、「完成させれば売り物になる即戦力」を冒頭のみで測る。――という本部門の意図としては、そうならざるを得ない。
 ラノベでもマンガでもドラマでも映画でもゲームでも、およそあらゆるコンテンツにおいて言えるのは、「キャラがすべて」ということだ。
 こいつの軌跡を見守りたい。――と思わせれば勝ちなのだ。

(ちなみに数少ない例外は、アイデア一本勝負の作品。マスゲームとか皆殺しホラーとか異世界集団サバイバルとか、アイデアがメインとなる場合には、キャラが立つことはむしろ邪魔であり、「普通」の感性を持った一般人が望ましかったりする)

 さて、今回の選考作においては、新木が常々言っている五要素が、おおむねクリアされていた。
 口を酸っぱくして言い続けていたので、大変、嬉しい。

1.どんなヤツか、わかる。
2.どんな世界か、わかる。
3.どんなことをしたいのか、わかる。
4.どんな味方がいて、どんな敵(障害)が立ち塞がるのか、わかる。
5.どんな話か、今後の展開が、わかる。

 この最低条件の五要素を満たした上で、「キャラのモチベ」に半分ほどの比重を置いて審査した。そして残り半分は「アイデア」だ。

 さて。受賞作の講評を述べる前に、タイトルについて苦言を呈したい。
 みんなもっと作品タイトルをちゃんと考えよう。あまりにも適当すぎる。
 たしかにタイトルは、小説賞の審査には、まったく関係してこない。どんなにひどくても、一切減点はしない。
 だが実際に本になって世に出すときには、タイトル及びそれを具現化した表紙の絵と帯の煽り文――「パッケージ」が、100パーセント売れ行きを決めるのだ。

 今回の審査対象のタイトルは、実際の内容と異なったものばかり。
 タイトルとはつまり「効能書き」である。たとえば風邪薬であれば、熱が下がるとか痛みが治まるとか、どう役に立つのかを書くわけだ。
 ラノベの効能書きなのだから、どう面白いのかを端的に書く。
 面白いところ、本当に、そこ? いやいや。違うだろう。

 さて受賞作である。今回は2作品を受賞にあげた。

 『※ただし探偵は魔女であるものとする』は、主人公とヒロインのキャラがよかった。また時間遡行能力で探偵活動をして、探る対象が自分を殺した犯人というストーリーや、異能者の裏組織という設定など、アイデアも商業水準に達している。
 冒頭から引き込まれる導入部分など、作劇的な技量はかなり高い。
 文句なしの入賞。
 ただし、これら高評価を得た物はすべて「読んだらわかる」部分である。総評でも述べたが、「パッケージ」が売れ行きを100パーセント決める。それは「読まないでわかる」ものである。
 その点で、この作品は苦労することになると思われる。

 『勇者の弟子を派遣します』は、まず主人公が狂気を宿している点 を評価した。「ニートしたい」という、普通でないモチベを持っていて魅力的である。そして弟子の少女が増えてゆく今後の展開には期待が持てる。作品自体は荒削りで完成度にはやや難があるのだが、IP小説部門として、こちらは「パッケージ」が見えやすく、将来性を高く評価した。よって入賞。

 『処刑人の善行』は、主人公およびヒロインが普通。アイデア面も普通。
 普通に読めるし普通に完成度も高いのだが、普通を逸脱した部分がひとつもないので売り物にはならず、よって落選となった。

【作品講評】

『勇者の弟子を派遣します』 /
 お茶ねこ

 遊んで暮らしたいがために魔神を倒して勇者の称号を得た主人公。だが強制依頼を次々と受けさせられることになり、ぜんぜん望みの人生を送れていない。そこに弟子志願の少女がやってきた。その少女を代役に立てることで、悠々自適のニート生活を送れると大喜びした主人公だが、鍛えているうちに情が移り、少女の初任務は陰からこっそり見守り助けている始末。そして二人目の少女が現れた。このままどんどん弟子が増えていくのか!?
 ……というお話。

 主人公はニートしたい勇者。うんおかしいぞ 。
 世界は魔族がいて国王が治めていて冒険者がいる世界。
 障害は俺のニート生活を脅かす全て。味方は弟子かつ手駒になったヒロイン。
 今後は弟子がどんどん増えていく。

 うん。面白そう。
 惜しむらくは、弟子の少女が「普通」なところ。とりたてて特徴のない善良な頑張り屋さんの良い子でしかない。この手のジャンルなら、やはりなんらかの「狂気」を期待するところ。
 今後、何人の弟子が出てくるのかは不明だが、それぞれの個性のバリエーションには自覚的な設計が必要だろう。
 ほら。戦隊物でも魔法少女物でも、熱血とクールと男前と甘えん坊を取り揃えたりする。色でいうなら色相環の全周からまんべんなく等間隔にサンプリングすると、赤青緑黄となったりする。
 そういった自覚的なヒロイン配置が必要だ。

『処刑人の善行』 / 青空あかな

 国の英雄だった男が、いまでは処刑人をさせられている。馬鹿王子が次々と送ってくる罪人はすべて酷い冤罪で、彼らをすべて逃がしていた。そして今回の処刑対象として王女が送られてくる。隣国と開戦しようとしている馬鹿王子には、和平派の王女が邪魔だったのだ。王女を逃がすための逃避行がはじまった。
 ……というお話。

 主人公は国内最強。世界はファンタジーの王国で開戦間際。
 やりたいことは王女を救いたい。敵および障害は馬鹿王子。味方は手助けしてくれる国内の友人や、かつて冤罪から救った人たち。
 新木が常々言い続けている「わかる」五箇条は揃っている。
 そこは大変評価できる。できるのだが……。なんかこう、いまいち興味を引かれない。
 理由はいくつかあるが、まず一つ目として、主人公のモチベをあげる。
 「やりたいこと=モチベ」が、巻き込まれ系かつ同情系。これが興味の弱くなる理由。人が最も興味を持つのは、主人公自身の内から発されるものである。
 そして次の理由として、登場人物がすべて「普通」であるという点。
 主人公からして――。
 冤罪は可哀想。→助けたい。
 元英雄の俺が処刑人をやらされている。→はぁ、やれやれ。
 これらはいわば、「普通」の人間の反応である。
 「普通」をこなすのも結構難しいことなので、それは評価できるのだが、この「普通の壁」を突破しないことには、入賞手前の優秀作どまりで終わってしまう。
 魅力的なキャラに化けるためには、狂気が宿っている必要がある。
 ぶっちゃけこの作品の中では、噛ませ役でしかない馬鹿王子がもっとも魅力的でさえあった。狂気に染まっているという一点において。
 キャラがすべて「普通」でしかないなら、アイデア面で見所が必要なのだが、その点に関して、本作はベタであり凡庸であった。

『※ただし探偵は魔女であるものとする』 / Praiseぽぽん

 記憶喪失で目を覚ました主人公が、置いてあったメモのアドバイスを頼りに行動して、助けてくれる協力者のもとを訪ねる。そこでわかったのは、異能者の組織が世界の裏には存在していて、自分はそこでナンバー2の実力者だったということだ。しかしその人物(自分)は既に殺されている……はず。
 主人公は協力者とともに、以前の自分を殺した敵を探すことになる。
 ……というお話。

 まず切り口が上手い。
 こうしてあらすじにするとわからず、読まねばわからない部分であるが……。
 主人公が「おまえが魔女か。依頼をしたい」という場面から、いきなり物語を開始している。
 主人公が記憶喪失だったり、メモが手がかりであったり、殺されていたのは、じつは自分であったり、自分と魔女の少女は異能者の組織のハイランカーだったり――と、好奇心が芋づる式にずるずると満たされていく。
 個性のあるヒロインと主人公の掛け合いも軽妙で、冒頭の導入部分は圧巻。
 時間遡行能力を使って探偵活動を行うというアイデアも評価が高い。
 異能バトルとか、主人公とヒロインのラブコメ要素なども期待される。

(敬称略、順不同)