IP小説部門の選考も、今回で四回目となる。
アイデアを測る賞と銘打ちつつ、各回、実際に測っているのは、主人公のモチベであったりする。
まあ、「完成させれば売り物になる即戦力」を冒頭のみで測る。――という本部門の意図としては、そうならざるを得ない。
ラノベでもマンガでもドラマでも映画でもゲームでも、およそあらゆるコンテンツにおいて言えるのは、「キャラがすべて」ということだ。
こいつの軌跡を見守りたい。――と思わせれば勝ちなのだ。
(ちなみに数少ない例外は、アイデア一本勝負の作品。マスゲームとか皆殺しホラーとか異世界集団サバイバルとか、アイデアがメインとなる場合には、キャラが立つことはむしろ邪魔であり、「普通」の感性を持った一般人が望ましかったりする)
さて、今回の選考作においては、新木が常々言っている五要素が、おおむねクリアされていた。
口を酸っぱくして言い続けていたので、大変、嬉しい。
1.どんなヤツか、わかる。
2.どんな世界か、わかる。
3.どんなことをしたいのか、わかる。
4.どんな味方がいて、どんな敵(障害)が立ち塞がるのか、わかる。
5.どんな話か、今後の展開が、わかる。
この最低条件の五要素を満たした上で、「キャラのモチベ」に半分ほどの比重を置いて審査した。そして残り半分は「アイデア」だ。
さて。受賞作の講評を述べる前に、タイトルについて苦言を呈したい。
みんなもっと作品タイトルをちゃんと考えよう。あまりにも適当すぎる。
たしかにタイトルは、小説賞の審査には、まったく関係してこない。どんなにひどくても、一切減点はしない。
だが実際に本になって世に出すときには、タイトル及びそれを具現化した表紙の絵と帯の煽り文――「パッケージ」が、100パーセント売れ行きを決めるのだ。
今回の審査対象のタイトルは、実際の内容と異なったものばかり。
タイトルとはつまり「効能書き」である。たとえば風邪薬であれば、熱が下がるとか痛みが治まるとか、どう役に立つのかを書くわけだ。
ラノベの効能書きなのだから、どう面白いのかを端的に書く。
面白いところ、本当に、そこ? いやいや。違うだろう。
さて受賞作である。今回は2作品を受賞にあげた。
『※ただし探偵は魔女であるものとする』は、主人公とヒロインのキャラがよかった。また時間遡行能力で探偵活動をして、探る対象が自分を殺した犯人というストーリーや、異能者の裏組織という設定など、アイデアも商業水準に達している。
冒頭から引き込まれる導入部分など、作劇的な技量はかなり高い。
文句なしの入賞。
ただし、これら高評価を得た物はすべて「読んだらわかる」部分である。総評でも述べたが、「パッケージ」が売れ行きを100パーセント決める。それは「読まないでわかる」ものである。
その点で、この作品は苦労することになると思われる。
『勇者の弟子を派遣します』は、まず主人公が狂気を宿している点 を評価した。「ニートしたい」という、普通でないモチベを持っていて魅力的である。そして弟子の少女が増えてゆく今後の展開には期待が持てる。作品自体は荒削りで完成度にはやや難があるのだが、IP小説部門として、こちらは「パッケージ」が見えやすく、将来性を高く評価した。よって入賞。
『処刑人の善行』は、主人公およびヒロインが普通。アイデア面も普通。
普通に読めるし普通に完成度も高いのだが、普通を逸脱した部分がひとつもないので売り物にはならず、よって落選となった。
『勇者の弟子を派遣します』 / お茶ねこ |
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遊んで暮らしたいがために魔神を倒して勇者の称号を得た主人公。だが強制依頼を次々と受けさせられることになり、ぜんぜん望みの人生を送れていない。そこに弟子志願の少女がやってきた。その少女を代役に立てることで、悠々自適のニート生活を送れると大喜びした主人公だが、鍛えているうちに情が移り、少女の初任務は陰からこっそり見守り助けている始末。そして二人目の少女が現れた。このままどんどん弟子が増えていくのか!? |
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『処刑人の善行』 / 青空あかな | |
国の英雄だった男が、いまでは処刑人をさせられている。馬鹿王子が次々と送ってくる罪人はすべて酷い冤罪で、彼らをすべて逃がしていた。そして今回の処刑対象として王女が送られてくる。隣国と開戦しようとしている馬鹿王子には、和平派の王女が邪魔だったのだ。王女を逃がすための逃避行がはじまった。 |
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『※ただし探偵は魔女であるものとする』 / Praiseぽぽん | |
記憶喪失で目を覚ました主人公が、置いてあったメモのアドバイスを頼りに行動して、助けてくれる協力者のもとを訪ねる。そこでわかったのは、異能者の組織が世界の裏には存在していて、自分はそこでナンバー2の実力者だったということだ。しかしその人物(自分)は既に殺されている……はず。 |
(敬称略、順不同)