IP小説部門は、冒頭40ページ相当で、どれだけ「期待感」を盛り上げられるかを測る賞である。
読んで感じる「面白い」ではなく、読まないうちに感じる「面白そう」を測るものである。
一見の客として、人が、ぶらりと料理店に入るとき、なにをもって店を選ぶのだろうか?
店に入っていないのだから、当然、まだ料理は食べていない。食べていないのだから、「美味しい」かどうか、わかるはずもない。
だから、「この店はなんだか美味しそう」という期待感を頼りに、店を選ぶはずだ。
小説の選ばれ方も、これと同じである。一見の作品が初めて選ばれるとき、まだ読んでいないのだから、当然、「面白い」かどうかわかるはずもない。人はつまり、「面白そう」という雰囲気とか匂いとか期待感とかで、読む作品を選んでいるのである。
物語において、面白そうな匂いを発生させる方法は、だいたい判明している。
1.どんなヤツか、わかる。
2.どんな世界か、わかる。
3.どんなことをしたいのか、わかる。
4.どんな味方がいて、どんな敵(障害)が立ち塞がるのか、わかる。
5.どんな話か、今後の展開が、わかる。
この5つの「わかる」が、タイトルなり、あらすじなり、冒頭40ページなりで確定していれば、それは「面白そう」となるのだ。
このうちで、1の主人公に関わる部分が、もっとも大きな比重を占めている。作品の面白さのゆうに半分以上が「主人公」によって発生する。
しかるに今回、第五回となる三作品では、キャラ部分の弱い作品が目立った。
「どんなヤツか?」という問いに、「普通の人間」と答えるしかないような作品だ。
エンターテイメント系列の作品として人が欲するのは、「普通じゃないヤツ」の軌跡である。普通の人間が普通の葛藤を抱えて、普通程度のことに懊悩する話には、まったく需要などないのだ。
物語のなかにおいて「普通の人間」に与えられるべき役割というのは、「ザコ」あるいは「モブ」となる。
ザコモブが主人公を張っている作品を、誰が読みたいと思うのか。
作家の資質的に普通の人間しか描けない場合もある。そういうときには、人物自体は普通でも〝チート〟などの後付けパーツを使って性能を上げることで、インスタント超人にグレードアップする手法もある。あるいは妙なフェチを持たせることで、「変態」にクラスチェンジさせることもできる。
ぜひとも工夫を見せてほしい。
今回の最終選考にあがった三作品のうち、二作品が、「普通の人間」としかいえないキャラを主人公においていたため、ほぼ論外で落選となった。
『亡国の皇女と最悪の呪師の鏡探し』 / こむらまひろ |
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亡国の姫君が、滅んだ祖国を再興しようとしている。 |
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『異世界探偵』 / 星川銀河 | |
異世界の存在が明らかにされた現代日本。 |
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『カースト頂点のギャルに激おこだったけど、百合になる暗示がかかってから可愛くて仕方ない』 / 最宮みはや |
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カースト頂点のギャルからウザ絡みされている主人公。友人に愚痴っていると、冗談まじりに「催眠アプリ」を紹介される。アプリをいじるうちに「百合」という催眠が自分に掛かってしまう。そのことに気づかないままギャルと会うと、相手が可愛く思えてきて、ついには唇を奪ってしまう。 |
(敬称略、順不同)