集英社ライトノベル新人賞
第13回
IP小説部門 #3
最終選考委員講評

(2024.11.20)

新木伸 先生 総評

IP小説部門は「アイデア」を測る賞である。
アイデアを計る賞なのだから、アイデア勝負の作品が、たくさん送られてくるわけだが……。

悲しいかな、アイデアというものが、誤解されてしまっている。

どう誤解されているのか。
それは「アイデア」=「設定」という誤解である。

設定はもちろんアイデアの一要素ではある。しかし、およそ5つぐらいある要素のうちの、たった一つでしかない。
主人公の人格であるとか、話の切り口であるとか、どんな葛藤とドラマがあるのかとか、アイデアとしてもっと重要なものがいくつもあるのだが……。それらはアイデアと見なされていないのか、軽視されがちだ。

アイデアの5要素というもの言語化して明記すると、以下の通りとなる。

・どんなヤツ。
・どんなモチベ。
・どんな世界。
・どんな味方。どんな敵。
・どんな展開。

「設定」は、このうちの「どんな世界」にあたるものだ。
そこ1つだけ頑張ってみても、他の4要素が、空白あるいはありきたりであれば、まるで足りない。「アイデア」があるとみなされない。
また逆に、設定がありきたりであっても、他で差別化を図るなら、それは充分にアイデアたり得る。

アイデアを設定であると勘違いしている者が、アイデア一発勝負の作品をどれだけ送ってきても意味がない。
新奇なアイデア(設定)が降りてきたことに満足せず、他の4要素を充実させることに力を注ぐべきだ。

むしろ、設定はありきたりの縛りにして、残り4要素のみで勝負する! ――ぐらいの気持ちでいたほうが、サボらず、良質な「アイデア」が出てくるだろう。

さて、今回、IP小説部門・第6回の最終選考には2作品があがった。

片方は、いまあげたアイデア(設定)一発勝負の作品。
もう片方は、アイデア(設定)はありきたりだが、他の4要素で勝負しているもの。

結果からいえば、片方は落選、片方は受賞。――となった。

これから応募される方は、「アイデア」というものを、よく考えてみてほしい。

【作品講評】

『ボスの餞』 /  氷堂

勇者を養殖したのちに刈り取ることで、魔界は膨大なエネルギーを得ていた。
ボスキャラを育てて人間界に送り出す。その世話役をしている主人公は、勇者一行が人間の村を襲い、村人を惨殺して略奪を行った現場に出くわす。
生き残りの少女七人は、激しい憎悪を勇者に向けていた。その憎悪に見込みがあると思い、彼女たちを魔王軍のボスとして育てることに決めるのだった。
――というお話。

「勇者の養殖」という設定には、新奇さがある。
だがそれ以外が、なんにもない。
主人公(と思われる人物)は、やたら強くて、やたらクールで、やたら感情が動かない。――つまり、よくわからないやつ。
主人公がなにをしたいのかも、よくわからない。

もしかしたら、これは「本編」の前日譚であるのかもしれない。ラストで見いだされた七人の少女のほうが主人公であり、彼女たちが成長して、七人の魔女として君臨して、勇者たちに復讐を果たす話が「本編」なのかもしれない。それならばモチベもあるし、敵も味方もドラマも備わっている。
もしそうなのだとしたら、本編のほうを送ってきてほしかった。

設定以外の4要素が欠け落ちている時点で、本作品は、総合的に低い評価となった。

『転生したら勇者しか抜けない剣が刺さった岩だった~勇者が来ないのでゴーレムになって自分で探しに行く!~』 / 長多 良

勇者しか抜けない聖剣の刺さった岩がある。その「岩」に転生した主人公。動けず、なにもできず、ただ勇者が聖剣を抜きにきてくれるのを待つだけの日々。
だが勇者は聖剣を抜かないまま魔王を倒してしまったらしい。
存在意義を失って悲嘆に暮れる主人公のもとに、聖剣を壊すため、魔族の残党が現れる。
聖剣も街も、岩である主人公も大ピンチ。そこへ魔法使いの少女が現れる。岩をゴーレムにするという裏技で自由を得た主人公は、街を守り、魔族を倒す。
そして魔法使いの少女とともに、自分を抜いてくれる「勇者」を求めて旅立つのであった。
――というお話。

魔王と勇者がいる世界という「設定」はありきたり。だが「どんなやつ(岩)」とか「どんなモチベ(抜いてくれ!)」といったあたりに新奇性がある。
味方は相棒となる魔法使いの少女。敵は魔族。今後の展開は、勇者を求める珍道中。
アイデアの5要素もきちんと備えている。

そして重要なのが、商品にしたときのパッケージが見えること。
「聖剣の刺さった岩ゴーレム」と「魔法使いの勝ち気な少女」――この2点で、絵的にバッチリである。

よって、IP小説部門として受賞に推した。

(敬称略、順不同)