IP小説部門は「アイデア」を測る賞である。
アイデアというものは、目的ではなく、手段である。
小説とは娯楽である。娯楽とは、読者を面白がらせて楽しませることである。楽しませるとは、具体的には「感情を揺さぶる」ことである。
「喜怒哀楽」の四つの基本感情のどれでもいいので、大きく揺さぶれば、それは娯楽となる。
とどのつまり、アイデアというものは、最大効率で「喜怒哀楽」を揺さぶるための仕掛けでしかないわけだ。
IP小説部門はアイデアを測る賞ではあるが、娯楽のそもそもの目的である「感情を揺さぶる」が果たされていなければ、どんな奇抜なネタを出してこようが、まったく評価されることはない。
アイデアの構成要素とは、だいたい、以下の通り。
・どんな主人公か。
・どんな目的(モチベ)を持っているか。
・どんな世界か。
・どんな味方か。どんな敵か。
・どんな展開か。
・どんな切り口か。(物語の開始地点)
この6要素が、アイデアのだいたいほとんどすべてである。
(過去の審査では5要素としていたが、今回から、「切り口」という一項目を加えることにした)
大事なことなので何度も言うが、この6つのすべては「感情を揺さぶる」ためにある。
感情移入しやすい主人公とか、憧れたり、応援したくなる主人公にするのは、読者の「感情を揺さぶる」ため。
主人公がなんらかのモチベを持っているのは、感情が動くためには、当然必要なことであり――。
世界の設定は、主人公の感情をより「揺さぶる」ために専用設計されていなくてはならず――。
敵がいて味方がいれば、向こうとこちらとの間で、感情が大きく振れるのは必然であり――。
展開は、当然、感情が揺れ動く方向性にあるべきだ。
そして話をどこから書き始めるのかという「スタート地点」。「切り口」についてだが……。
もっとも面白くなる切り口と、もっともつまらなくなる切り口とがある。
しかるに、大変嘆かわしいことであるが……。
だいたいの応募作において、「もっともつまらない」ほうが採用されてしまっている。
よりにもよって、なんで、そこから始めちゃう?
べつの地点から書き出していれば、何倍か面白くなるのに、あーもったいない。
――というケースの、なんと多いことか。
たぶん、思いついた場所がそこからなので、そのまま書いてしまっているのだろう。そうではなく、書く部分の前と後ろも、何ヶ月も何年分も考えておく。主人公なんかは、特に「生まれてから死ぬまで」を考えた上で、彼の人生のうちの、どこがもっともエキサイティングだろうと検討し、もっとも面白くなる部分からスタートするのが、正しい切り出し方なわけだ。
なお「切り口」もアイデアのうちなので、切り口の誤ちは、容赦なく減点ポイントとなる。
これはもっとも簡単に直せる部分だ。どこから書き始めるか。ただそれだけなので。
投稿予定の諸氏は、注意してほしい。
さて。今回の最終選考には2作品があがった。
かたや、話の切り口=書き出し位置の誤り。
かたや、主人公が喜怒哀楽のうちの「喜楽」しか持たず、「怒哀」の欠落した人間味の薄い人物造形。
どちらも6要素のうちの一つに致命的ミスを抱え、結果、面白くないものとなっていた。
よって、両作品とも落選となり、受賞作なしという結果に終わった。
『お嬢さま、貴方、前向きすぎて迷惑です! ~家なし令嬢奮闘記~』 / 遠屋 堤 | |
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ある日突然、公爵令嬢である主人公は、婚約者である王子から婚約破棄を言い渡される。そして実家も没落。学園の寮からも追い出されて、路頭に迷うことになる。 |
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『勇者様と旅に出たら世界を滅ぼすことになってしまいました。助けてください。』 / 三十三 |
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魔王を倒しに向かった勇者と聖女だが、魔王は強大で、勝てそうになかった。勇者の危機に、聖女は封印していた力を用いる。その結果、力が暴走して、怪物となってしまう。 |
(敬称略、順不同)