第1回集英社ライトノベル新人賞ゲスト審査員講評

新房昭之監督

今回、ゲスト審査員として応募作品を読ませていただいて、ファンタジーものが多いという印象がありました。それは、現代を舞台としていない分、自由度が高いため書きやすいというのがあるのではないかと思います。ベースが何であるかということではなく、同じ世界の中でいろいろな出来事としてそれぞれの物語があるかのような感じがしました。その中でもファンタジーであればこうであるという共通認識にまかせるだけではなく、独自性が出せたものがやはり面白いと思いました。全体的に流行りの雰囲気というものも感じましたが、それぞれが文章のレベルが高く、プロの水準に近いものになっていたと思います。

ウィッチハント・カーテンコール 超歴史的殺人事件
読んでみてこれは面白くなるという印象がすぐにありました。特に、魔女の使う魔法が限定されているというところがよかった。主人公を殺そうとしてくる組織とかをうまく配置していて、世界観も見事にはまっていたと思います。読み進めていくうちに、トリックはさすがにわかってしまったのですが、その後でまた物語にひねりを入れてきたりしていて、意外性もあり楽しむことが出来ました。欠点があるかというと特に見当たらなかったというくらい、完成度が高かったと思います。とにかく楽しませるというわかりやすさがあり、その上でキャラクターの葛藤とかも書くことができていました。この若さでというのもありますが、プロの水準で物語を完成させることができていたと思います。もっといろいろなものを書いていって欲しいし、読みたいと思いました。
五色の魔女
設定についてとにかく面白さがありました。5人の魔女がいて、そのうち1人が死んでいて、それがなぜなのかというところ、そこを期待して読みました。ただ、読んでいくと、その部分よりもバトルの面が強くでてきてしまったりしていて、あれ ? そこは、重要じゃないのかなと読んでいると最後にこうでしたと、また話が戻るという。特殊というか、とても世界観と設定は面白くよく作れているのに、構成において残念である気がしました。キャラクターの個性は強くあったし書くことができていたので、よりもったいない印象があります。どこを見せるのかというところを意識して再構成するとまた変わると思います。その若さで、世界観とかキャラクターをつくる意思が強く出ているというのは高く評価できるものだったと思います。
猫神家な日々。
日常的な世界観の中に、女の子しか出てこないというわりと特殊な設定でつくられた物語でした。ただ、まったく男のひとが出てこないわけではないのですがほぼいないというところで、特に「父親がどうなっているのか」ということが気になって仕方がありませんでした。この話をつくるにあたって、先に浮かんだ設定にまかせて、こうすればはまるのではないか、という書き方をしていた印象があります。文章力があってとても読みやすく、新人賞としては水準の高いものとなっていたため、もう少し別の切り口で、「こうしたものを伝えたい」というものを出して書いてみると良いのではないかと思いました。
魔人ハーフオーク、旅に出る
物語を読ませようとする力はあったと思います。ただ、主人公のキャラクターにブレを感じてしまい、感情移入がなかなか出来なかったというところをもったいなく感じました。それは、読んでいて主人公のサイズ感というものがつかめてこなかったのというのが原因だと思います。タイトルの付け方での印象というのもあるのですが、旅に出たのは最初だけであり、そういった意味でも物語自体は楽しませる工夫が見えるのに、いくつか損をしているように思いました。主人公の性格、キャラクターの作り方というところでブレがないように一貫性を持たせた上で、タイトル等印象を意識して構築しなおすとこの世界は楽しめるものになると思います。

最終選考結果へ戻る

これまでの選考結果へ