『スターダスト・ワールド』雨宮ソウスケ
魔王との戦いの中、魔王とともに異世界に流されてしまった主人公の王女。宿敵であるはずの魔王はとても優しく、異世界で生きるために協力していくことに。ふたりの心の距離も縮まっていくが…。ファンタジーの王道もいえるストーリーで、男性女性問わず楽しめる魅力にあふれています。しかし、これだけ異世界ファンタジーが氾濫する中で、新人賞応募作品として、ほかの作品にない要素がほしかったのも事実です。作者は、良質のストーリーを紡ぐ力を持った方です。もう一歩ステップアップを期待します。
応募原稿を読んだ時「女性向け作品?」と思うくらい魔王とヒロインの甘いシーンが多く、好みが分かれそうな作品でした。
ですが、男性読者にも響く憎めない魔王のキャラクター造形と、最後まで楽しく読ませる構成力もあるため、「女性向け」だからと一刀両断するには惜しい作品に仕上がっています。
ただ、レーベルの読者層に合うかどうか、このようなタイプの作品がすんなり受け入れられるかどうか、作者がどのように考え、応募したのかが知りたくなりました。
作中ではファンタジーだけでなく、SFの要素を取り入れたりと舞台を複雑にしすぎていて、設定の取捨選択ができていないように思えます。
他にも一つ一つの場面を丁寧に書きすぎたためにテンポを崩してしまった箇所も多いことから、作者には「作品にとって何が必要なのか」を客観的に見る力を磨いてほしいです。
- 市場の動向をちゃんと捉えて、異世界でのやり直し、主人公の最強っぷりなど基本的なツボを押さえてきている。
- ヒロインの目線から魔王を見ており、まるで少女漫画のような描写が多々ある。好みが分かれるところだがハマる人はハマる魅力がある。
- ラストにかけて唐突に設定が壮大になりすぎて、置いてけぼりになる読者が出そう。
- ヒロインが主人公の魔王に心を許していく過程が理解できない。仇敵に簡単に心を許しすぎでは? ただこれも少女漫画的な文脈で捉えると理由が必要なくなるので、読者を選ぶ作品なのは間違いない。