『アニメが見たい機械王』木下史朗
最終戦争後の地球で、人類遺産の発掘任務に励むアンドロイドが、遺跡からアニメのデータチップを発見するという出だしは魅力的で、心惹かれました。ただ、作中のアニメ(読者にはその内容はわからない)があまりに類型的な美少女アニメである点、キャラクターがアンドロイドであることの必然性などが少し弱い気がしました。全体的には、キャラクターのかけあいもいきいきしていて、たいへん面白く読めました。
戦争によって地下に人間たちがコールドスリープされ、その住めなくなった世界と文明をアンドロイドたちが修復していくという物語設定に惹かれました。アニメ作品のデータを掘り起こしたことから、その「アニメが見たい」という欲求に従って次々と明かされていく事実や問題を解決していく感じが勢いもあり良かったです。ただ、その一点突破的な部分もあるので後半は少し勢いが落ちてしまったように感じました。もう少しキャラクターを強く出して会話などを盛り上げつつ魅力を出せばもっと良いものになると思います。
- SFジャンルのとっつきにくさを極限まで和らげているところは非常に良かった。「アニメ」という読者との共通項をみつけ、小難しくならないようにする配慮がなされていた。
- アンドロイドといいつつ、メンタルがほぼ人間なので、あまり設定に意味が感じられなくなってしまっていた。作者独自のアンドロイド感が欲しい。
- アニメが見たい、という一点突破しか主人公の軸がないので、中盤以降飽きる。サブプロットやサブキャラで補強しつつ、物語の中心軌道を描く術を身に着ければもっとよくなるはず。
- 作中作をどんなに熱く語られても読者はその作中作は知らないので、キャラクターの感情と読者の感情が乖離してしまう。読ませ方に工夫を。