世間はGWに浮かれていた頃、編集部は戦場だった。
ギリギリまで引っ張られる〆切。
緊迫する印刷の調整。
死力尽くす戦いの末……一冊の本が入稿された。
『パパのいうことを聞きなさい!3』
原作者の松さんは、この言葉を小説でよく使う。
彼の好きな言葉だ。
だが今回はあえて私、編集長丸宝が言おう。
この小説が出たことは『奇跡』である、と。
【まずは反省会から】
丸宝: さて、私のポエムで始まった対談ですが、お二人とも宜しくお願いいたします。
松: なんか冒頭から責められてる気がしますね。仕方ないけど(笑)
なかじま: いやー、今回は厳しかったですね。
丸宝: だって俺、GW全くなかったよ!
松: 誠にスミマセン。
なかじま: 今回は……大変でしたね…
松: 二重にスミマセン。
丸宝: 私の長い編集経験でも、かなりヤバい進行のひとつでしたね。まあ、ギリギリ間に合ったからいいですが。
松: お恥ずかしい限りです……
丸宝: とまあ、このように作家も言っておりますのでここはひとつお許し頂けますでしょうか、なかじまさん。
なかじま: いや、その、私は別に怒ってるわけでは…。ただ、指定がこないと…いや何でもないですすみません。
丸宝: 原稿が来ないと、編集者に出来ることなんて胃を壊す事くらいだしねぇ。
松: まあ……まあ、そうなんですけどね。でも、熱が39度越えてるから今回は落としてもいいですかって聞いたじゃないですか! 僕は五ヶ月四冊の後で更に隔月刊してる訳ですが……
丸宝: そうだけど、自分でやるっていったんだから。
松: ぐっ……そ、そうなんですけどね……
なかじま: まあまあ、間に合ったんですし。終わりよければすべてよし、ですよ。シェイクスピアもそう言っています(笑)
丸宝: ははは、では、松さんをいじるのはこの辺にして本題にいきますか。
松: ホントにごめんなさい……
【と、いいながらもみんなパパが好き】
丸宝: いやまあ、ネタとしていじらせて頂きましたが、締め切りを除けば、『パパのいうことを聞きなさい!』は、本当に面白いね!
なかじま: 私もそう思います! 締め切りが厳しいですが、松さんさすがです!
松: ……褒めるか貶すがどっちかにしてください(笑)
丸宝: ははは、正直、発売以来の大反響は驚くばかりで、現在アニメ放映中の松さんの『迷い猫オーバーラン!』シリーズに比肩する出だしを記録しています。一巻、二巻とも発売即日重版の上にまだまだ伸びています。
なかじま: すごいですね……
松: ほとんどなかじまさんのおかげという気もしますが。
なかじま: …いや、それはないかと…。まぼろしですよ。幻覚です。
丸宝: 実際、なかじまさんのインパクトはすごかったよね。どこにいっても『どうして描いてもらえたんですか?』って聞かれるし。
松: 僕もです。
なかじま: そう…ですかね、ありがとうございます。でも、もともと『パパ』のアイデアを聞いて参加を決めたんですから、松さんのお力です。
松: うまいなぁ、なかじまさん。
丸宝: 実際、『迷い猫オーバーラン!』のスタート時と比べると松さんの小説力自体もあがってる感じはありますし、いい具合に噛み合ったということですね。
松: いつも緊迫して書いてますけどね……
丸宝: その気合と緊迫感が物語を面白くしている訳ですよ。
なかじま: 中身は優しいお話なんですけどね。
松: 生活はいつもギリギリですけどね。日常は冒険ですから。
丸宝: では、そろそろ中身にいきましょう。
【一巻からの展開】
丸宝: まずはおさらいから、一巻での姉夫婦の行方不明から一緒に暮らすまでの流れは、かなり急展開で驚きましたが、その辺、松さん的にはいかがでしたか?
松: うーん。いかがでしたかと言われても……難しかったです。
なかじま: いきなりの鬱展開と言われても仕方ないはずなのに、さらっと読めるのが不思議でした。
松: 実はそのあたりのシーンは4パターンぐらい書きました。逆に言えば、あそこに説得力が作れて、なおかつもともと本位ではない『暗い話』のイメージが生まれなければ、この物語は面白くなるはずだ、と。
丸宝: さじ加減だね。リスクを取った展開を選んだわけですね。
松: もともと、主人公が大学生だったり展開がすべて日常の枠内だったり、ラノベの常識みたいなものがあるとしたら、結構、リスキーな選択ばかりですが(笑)
なかじま: そうですよね。ここまで「普通」なままで「ラノベ」を書いてる作品は珍しいと思います。
松: 狙ったというよりは、三姉妹と祐太の関係を考えているうちに逃げられなくなったというか。小説は生き物ですね……
丸宝: 一巻ラストで小鳥遊家に移動するところまで考えてたの?
松: まあ……当初から親戚も別に悪い人たちじゃないと思って書いていたので、家はある訳ですし、六畳一間でこれから長く暮らすのは流石に無茶かな、と。
なかじま: 二巻から仁村くんが住んでますしね。
松: あれはねー、色々とこれからも思い出の場所として活躍してくれるのではないかと。
丸宝: そして大好評のまま二巻が出たわけですが、二巻は空ちゃんの話だよね。
松: はい。三姉妹に加えてサークルの先輩で祐太の憧れである莱香さんも含めて、迷い猫同様に「全員ヒロイン」でいく前提ですが、空ちゃんはまず最初のキーパーソンですし。
なかじま: 意外な趣味については、一巻の段階で決めてたんですよね。デザインの段階でネタを仕込みましたし。
松: ははは、挿絵指定はしていないのでそのデザインに込めたネタは永遠に謎ですが。
なかじま: ……みんな分かると思いますよ。
丸宝: 二巻になると、みんないきいきしてくるよね。元気になると言うか。
松: そうですね。まさにその「元気になる」というか、頑張ってはしゃぐ感じが二巻のテーマです。もう一つは「秘密」ですかね。家族になっていくひとつの過程というか。
丸宝: お姉さん達の像も掘り下げられていて、多角的な感じになってきたよね。
松: 家族って、お互いに意外と知らないことがあったりすると思うんですよね。趣味の部分とか特に。それと、辛い環境にあっても楽しみって見つけられると思うので。家族に心配かけまいとして、意外に辛いことは家族にこそ言いにくかったり。そういう面を書きたかったんです。まあ、題材が僕の趣味に近くなるのはお約束です(笑)
なかじま: お姉さんが裕太に趣味の事を黙っていたところは、非常に共感しました(笑)それと前島君が不評という噂を聞くんですが(笑)
松: いやー、尺が足りなかったですね。数えたら新キャラが6人出てて! 僕の実力不足です。上手く書いてあげられなかった、ということだと思います。精進します……
丸宝: 二巻でガン!と世界が広がったからね。でこぼこする部分もあるのはしかたないかと。それぞれのキャラクターのこれからが楽しみです。
なかじま: そういえば、二巻には栞の髪の毛の色がピンクか黒髪か、って疑問もあるんですよね。
松: ああ、それについては三巻のあとがきで触れてますので、ぜひそちらをご確認ください。
【気になる三巻は?】
丸宝: 三巻の話になってきたので、気になる三巻をすこし語ってください。
松: そうですね。物語の緩急としてはゆっくり目ですかね。
なかじま: 優しい素敵な展開ですよね。
松: まず、七五三なんですけど……なかじまさんの描く着物のひなが可愛くて!
なかじま: ひなちゃんは描いてて楽しいですね!
丸宝: もともと松さんの話は優しいけど、今回はまた特別優しい感じだよね。
松: 二巻でキャラクターを増やしすぎたので、ちょっと落ち着いて書かせてもらいました。……スケジュールは落ち着いてなかったですけど。
丸宝: 迷い猫の時は一巻ごとにヒロインキャラがいる感じでしたが、パパの三巻はそうでもないよね?
松: うーん、その辺は微妙です。迷い猫はキャラクターにテーマがあるイメージで、パパはキャラクター同士の関係自体がテーマを持っているイメージなので、読後の印象としては迷い猫よりキャラが均等な感じがあるのかも知れないですね。
なかじま: みんなに見せ場があって、とてもいいお話だと思いました。ほんとに、ひとりでも多くの人に読んで頂きたいですよね。癒されます。
松: あ、そういってもらえると嬉しいですね。ぜひひな達に癒されていただきたい。なんなら、莱香さんの巨乳に癒されていただいてもいいですよ。
丸宝: 俺は莱香さん好きなんだよね。いい女だよ。ミステリアスな面もあるし。
松: 僕は全キャラ好きですからねぇ。なんか小説一冊の尺に入りきらない程アイデアがでるので、いつも困ります。毎回、ひとりひとりのキャラだけで一冊書けそうです。
丸宝: 書いてくれてもいいですよ。締め切りを守ってくれれば。
松: ……いや、好きなだけ書いたらいったいどうなるか自分でも想像できないので、事前に決めたページ数に収める方向で頑張ります。
なかじま: 松さんに「好きなだけ書いていいですよ」と言ったら、どうなりますかね(笑)
松: 少なくとも、締め切りまでにどれだけ時間があっても、締め切りに終わらない自信があります(笑)
丸宝: 出版できないじゃないですか。だったらダメです(笑)
【今後の展開は?】
丸宝: それでは、今後についてと、三巻の宣伝を最後に。
松: とりあえず、予定では次は四ヶ月後になるはずです。間に迷い猫の9巻を挟むので。
なかじま: そっちもすごく楽しみですね。8巻の千世ちゃん可愛かったです。
松: お気遣いありがとうございます。まあ、今アニメもやってるので『迷い猫』もよろしくお願いいたします(笑)
丸宝: いやいや、どちらも編集部としては推していきますよ。
なかじま: 編集長が、ネットのインタビューでアニメ化も視野にいれていると書かれていてびっくりしました。
丸宝: もちろん、編集部としては期待してます。でもまだなんにも決まってないですよ。すべてはこれからです。だってまだ三巻だし(笑)
松: そうですよね。地道に一巻ずつ頑張らないと……
丸宝: 今までのところ、松さんは発売延期がないのがありがたいです。今回はひやひやしましたが、これからも頑張ってください。
松: なかじまさんに挿絵をつけてもらってダメな作品を書いたら戦犯でしたから、一応、曲がりなりにも評価して頂いてほっとしていますが、気を抜かずに頑張ります。
なかじま: 松さん持ち上げすぎです(汗。初商業でこれだけ評価して頂いて、何とか大役を果たせてほっとしております。スケジュールが厳しくても、クオリティを落とさずに頑張ります。
松: ははは……なるべく急ぎます。
丸宝: さて、最後に三巻の宣伝を改めてお願いします。
松: えーと……必死で書きました。よろしくお願いいたします。
なかじま: 今回は、巻末に四コマを三本書いてます……読んで頂けると嬉しいです。
丸宝: それに、販促も今回は大規模にやります! 各巻の帯についていた応募券、売れなかったら使えないかも知れなかったので告知はしてませんでしたが、予想以上の部数に伸びましたので、全員サービスやります! 書き下ろし公式小冊子!
松: ……まあ、でも中身はどう見てもDigital Loverさんの同人誌ですよね(笑)
なかじま: いやいや何言ってるんですか公式小冊子です! ……健全ですし!ええ!
松: ははは、僕も書き下ろしやります!
丸宝: 応募要項を読んで頂いて、ルール通りに申し込んで頂ければ必ずお手元に届きますので、ぜひ奮ってご応募ください! ホントはプレゼントにしたかったんですが、それだと抽選で少数の方にしか届けられないので、今回はこの形で。中身は期待してくれていいですよ!
松: ……まあこれから書くんですけどね(笑)
なかじま: 編集長、さらりとプレッシャーかけますね…(笑)頑張りますので、「パパのいうことを聞きなさい!」をこれからも宜しくお願い致します!!
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