某日、下校途中のこと。
「優樹よ。一度やってみたいことがあるのだが」
神鳴沢世界が遠慮がちに申し出てきた。
「そりゃもちろん」桐島優樹はうなずいて、「なんでも言ってくれ。なんでもするから」と答えるのだが、世界は首を振り、
「やっぱり止そう。今の発言は忘れてほしい」
「え? なんで?」
「許されないことだとわかっているからだよ。いくらわたしが神であっても、いや神であるからこそ。ルールは守らねば」
「その気持ちは立派だけどさ。でも言ってみてくれよお前の望みってやつを。俺はそれを叶えてやりたい。全力で、どんなことをしてでも。言っただろ? お前を幸せにするのが俺の仕事なんだって」
「優樹……ありがとう」
世界は瞳をうるませた。
それから意を決したように、
「実はだな」
「うん」
「あ」
「あ?」
ぎゅっ、と世界は身を縮めて、
「アイスクリームが食べたい」
と言った。
「もちろん知っているのだ、買い食いをするのはよくないことだと。校則違反で、ルールから外れることだと。だけどわたしはこれ以上誘惑に抗うことができそうにない。一度でいい、アイスクリームを買って食べながら帰り道を歩いてみたい」
「…………」
「だ、ダメだろうかやはり」
上目遣いで世界は言った。
その日、とある街では。
バケツサイズのアイスクリームを抱え、よたよた歩きながらもご満悦な笑顔を作る銀髪少女の目撃談が、何例も報告されたという。
case No.1 end