某日、下校途中のこと。
「優樹よ。今日はちょっと付き合ってもらいたい場所があるのだが」
神鳴沢世界が遠慮がちに申し出てきた。
「そりゃもちろん」桐島優樹はうなずいて、「で、どこに行くわけ?」
「こっちだ」
先導して世界が歩き出し、ほどなくして優樹の身体に緊張が走る。
いわゆる歓楽街だった。
それも夜に繁盛するタイプの。ホテルがあちこちに立ち並んでる系の。
「ちょ、ここって……」
「…………」
口を閉じ、世界はうつむきがちに先を急ぐ。その頬が照れくさげに赤く染まっている。
(おいおいマジか)
これはつまりそういう意味なのだろうか? いやしかしそういうのはまだ早いのではないか? もっといろいろ順序というものがあるのでは?
「ここだ」
しばらくして世界が足を止めた。
優樹はごくりと喉を鳴らし、たどり着いた場所を確認して――そして首をひねる。
そこは歓楽街の谷間にひっそり店を構える、一軒のバーであった。
「どうしてもここに来てみたかったのだ」
世界はもじもじしながら、
「自分の部屋であれだけ毎日飲んでいるのに、と言われたら申し開きがないのだが。たまにはこういうところで飲んでみたくてな。付き合ってもらえるだろうか優樹よ?……優樹? どうしたのだ? なぜそんながっかりした顔をしている?」
ふたつ返事、ではないものの、もちろん喜んで付き合おうとした優樹だったが。なにぶん大人の店であるからして、高校の制服を着たふたりがすんなり入れる店ではなく、後日になってあらためておチヨさんと同伴で来店することになった。
もちろん、神鳴沢世界が大いにご満悦だったことは言うまでもない。
お酒は二十歳になってから。
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