某日、神の御座所でのこと。
「ユウキよ。わたしは究極のシガレットチョコが食べてみたい」
 神鳴沢セカイがそんな申し出をしてきたのである。
「究極のシガレットチョコですか」桐島ユウキは首をひねりながら、「神よ。あなたは以前おっしゃっていませんでしたか。シガレットチョコはお嫌いであると」
「そんなことはない。わたしはあの食べ物の不合理と理不尽については嫌っているが、存在自体は好きなのだ」
「なるほど。では煙草の葉っぱの味がするチョコレートか、チョコレートの味がする煙草の葉っぱか。どちらかを持ってくればよろしいのですね?」
「いや。それはちがう」
「なぜです? 以前あなたはそのふたつのうちどれかがいい、という意味のことをおっしゃっていませんでしたか」
「それはもうアイデアとしての新鮮味を失っている。なにか別のものがほしい」
 わがままである。
 が、これも仕事であった。
「わかりました。ちょっと考えてみます」

 それからしばらくして。
「神よ。これが究極のシガレットチョコです」
「ほほう。ではさっそく味見するとしよう」
 神はいそいそとパッケージを開け、「むうっ!?」と驚きの声をあげる。
「なんだこのシガレットチョコは。ピンク色をしているぞ?」
「はい」
「それに食べてみるとなんだ、これはイチゴ味……なのか?」
「おっしゃるとおりで」
「ほかのシガレットチョコもユニークな色と味をしているな。こちらは緑色のメロン味、こちらは紫色のぶどう味か」
「はい。さまざまな色と味を取りそろえています。名付けて『レインボーシガレット』!」
 自信満々に言ってのけたユウキだが。シガレットに似せたチョコレートという本来のコンセプトからはかなり外れるし、かなり子供だましではある。とはいえそもそもが子供向けの駄菓子なのだ。こういう回答があってもいいだろう。
「いかがでしょう? ご満足いただけましたか」
「うむっ!」
 神鳴沢セカイは大いにうなずき、むしゃむしゃ頬張るのだった。

 神に子供っぽいところがあるのを巧妙に突いた、ユウキの勝利であろう。
 なにより神の無邪気な笑顔!
 わがままを叶えるのは一苦労だが、こういうご褒美もついてくるのだ。駄菓子についてくるオマケと同じく。

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