第8回集英社ライトノベル新人賞最終選考審査員 講評

丈月 城 先生

今回はなかなか面白い審査となりました。
小説というジャンルはプロ・アマの区分が非常にあいまいです。
しかも近年はデビューの入り口が増えた関係で、その境目はますますわかりにくくなっています。でも、長く職業として(←ここ重要)継続していくつもりなら、やはり「ある水準」以上のスキルや見識を持っていたいもの。そして実際、ベテランと呼ばれるような方たちの筆力はその水準を「ひょいっ」と超えております。
今回、最終選考に残った候補作。
そのあたりの境目で足踏みしている印象の作品が多かったですね。
そうなっている原因もそれぞれバラバラ。バリエーションに富んでおり、興味深く読ませていただきました。
さて、今回も審査員の相方は業界きっての紳士・山形さん。
ハートフルかつ正統派の講評はもう全面的におまかせできるはずなので、こちらはテクニカル面+進路案内を重視でコメントしてみましょう。

第8回前期入選 「アニメが見たい機械王」
なんとも可愛らしい作品です。
主要キャラがみんな元気で可愛らしく、愛すべき存在だと言えます。
現状、そこが最大のストロングポイント。しかし舞台は『人類の消えた超未来』『ロボットが地球文明を再構築しつつある世界』。
濃い/深い/壮大な味付けを想定してしまう舞台設定なので、キャラ以外を「ちょっと薄味に仕上げすぎてるかなあ」という感もあり。
でも、話を大きくするだけがエンタメではありません。
逆にキャラを可愛く描くこと、彼らの楽しい人間模様にひたすら一点集中して、唯一無二の存在感を創り出すのだって選択肢です。どういう方法であれ、自分の持ち味をもっと強調して欲しいと思いました。
構成要素のすくないお話を手堅くまとめられるのはわかりました。
なので作者には、「その先を見てみたい!」とリクエストしたいところです。
第8回前期入選 「幻想の管理人 -盲目の吸血鬼-」
さて困りました。今回イチオシの作品です。
なぜ困るのかというと、「受賞/出版決定だけで満足しちゃう人がたまにいる」からでして。出版に向けた受賞作の改稿もそこそこに本も出てないうちから小説家を名乗りだして仕事や学校をやめゴニョゴニョ――ま、くわしく語るのはやめておきましょう(苦笑)。
実は本作、プロットだけ見ると決して上々の出来とは言えません。
なにしろ長編小説の佳境で主人公がいきなり『回想のなかの主人公の祖父』に代わっちゃうのですから。
でも全編通して、なかなか面白く読めてしまうんです。
まさしく作者の筆力がなさしめるところ。すばらしい。特にいいのは『鬼』と『虚構種』の"怪物性"を活写できていた点。マンガとちがって"文字媒体"で妖怪/怪物ジャンルに挑む場合、モンスターの外見を描写する意味はあまりありません。彼らがいかなる怪物であるのか、その怪物性を描くことが大切なのです(この説明だけでピンとくる人、文章書きのセンスありますよ!)。
惜しむらくは、『虚構種』を幻想種『虚構』として一話だけで使い捨てる大胆さが欲しいところでした。あるいは今のように半端な形ではなく、物語全体のテーマを虚構種との戦いにしっかりシフトさせるか。
断言しますが、この作品は大胆にリファインできれば、相当に面白くなります。
第8回後期入選 「三人目の魔女が来る」
読んでいて、妙になつかしい気分になりました。
本作のコンセプトはまさに『うる星やつら』。おお、地球の運命を懸けたラブコメよ。もはや古典となった名作を本歌取りするチャレンジ、個人的には嫌いではありません。そしてドタバタSFな展開が詰め込まれた前半部、ぼくらの大先輩にして女神さま・新井素子先生の初期作に通じるところもあり、なかなか楽しめました。
しかし途中から、粗もちらほら目に付いてきます。
ひとつだけ挙げると、一人目・二人目の魔女よりタイトルにもある「三人目」、女性人格AIの存在感が序盤から"強すぎる"ところとか。このコンセプトなら一人目と二人目を十二分に立てたうえで、後半の起爆剤として、いよいよ三人目にスポットライトを当てる方が効果的なはずなのですよ。
本作は個々のシーンを抜き出すと、かなり完成度が高いのです。
あとはそれらを連続したストーリーとして読んだときのクオリティ。もうすこしでブレイクスルーできそうにも感じます。次作に期待です。
第8回後期入選 「鮮血のコントラクト」
女の子にモテたい、イチャイチャしたい、棚ぼたで超強くなりたい、かわいくて自分にベタぼれで甘やかしてくれるご主人さまのしもべになりたい。『ダメな男の子のプリミティブな願望』をこれでもかと充足させようとする意欲が全編に満ちた作品です。ここ、非常に評価したい点です。
こういうコンテンツを欲する男子・おっさん・老人はいつの世も多いもの。
そこへストレートに訴えかけるサービス精神、それだけで強みになります。職業小説家として、大きな武器になるでしょう。
でも文章や世界観の構築、企画力など、土台となる部分がまだ粗いのも事実。
そのサービス精神をキープしながら、もっとたくさん書いて、読んで、経験値を積んでいって欲しいと思いましたね。

山形石雄 先生

今回の選考も候補作は傑作ぞろいで、候補四作のおのおのに違った魅力がありました。
候補作の全てが作品世界がしっかりと構築されており、その中でキャラクターが地に足をつけて生きていました。そしてどの世界もそれぞれに魅力的でした。
是非ニ作目三作目を見せていただきたい。世界中の読者に届けていただきたいと思える四作品でした。

第8回前期入選 「アニメが見たい機械王」
シリアスな状況をしっかりと描写したうえで、それをいい意味でぶち壊す主人公たちの言動が魅力的でした。また、悪役の描写が非常に良い。主人公たちへの愛情の深さや悪役なりの理念の強固さがしっかりと読み手に伝わってきて、それがなおさら不気味さにつながっています。ただ、主人公たちの行動がややワンパターンに見える部分があり、その点には改善の余地があるとも感じました。
第8回前期入選 「幻想の管理人 -盲目の吸血鬼-」
文章がとても美しい作品です。繊細でありながら、物語に引き込んでいくダイナミックさもあり、文字を追っていくだけで気持ちがよかったです。物語も丁寧に作り込まれており、キャラクター一人一人のあり方や生き死にに、作者が誠実に向き合っていることが伝わってくる内容でした。特に親友の佐伯がかかわる事件と、それに向き合う主人公の心情には深く胸を撃たれ、本作の白眉といえる場面であったと思います。
第8回後期入選 「三人目の魔女が来る」
まず出だしが素晴らしい。冒頭の10ページでこれは面白くなると確信しました。それ以降の展開もスピーディで飽きさせないものになっており、作者の力量がうかがえるものでした。後半の急展開は予想のつかないものでありながら、納得のできる内容であり、その点にもうならされました。
キャラクターの中では自分はレティナが特に好きです。続編があるのなら、彼女と主人公の掛け合いをまた読ませてほしいと思っています。
第8回後期入選 「鮮血のコントラクト」
構成がしっかりとしている作品です。物語の冒頭から結末に至るまで、読者を飽きさせないよう工夫が凝らされており、結末に至る伏線も巧妙にちりばめられています。作者のストーリーを構築する手腕の高さを感じさせます。
また、主人公であるフィングの人間性に好感を抱きました。物語の最初から最後まで一貫して描かれる責任感の強さや、敵に対しても寛容さをみせる点など、ただのお人よしではない芯の強さが伝わってきます。そうした主人公の描写が物語に説得力を与え、読後感にさわやかさをもたらしていると感じました。

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