All You Need Is Kill
Introduction イントロダクション
ある、ものすげえヒマな午後のことです。
とあるゲームのプレイ日記をネットで見ていたとき、 ひとつの物語が頭に浮かびました。
それは戦争シミュレーションゲームだったのですが、 脳裏を駆け抜けた物語の雛型はまったく違ったものでした……。
発売前から業界(一部)騒然の『All You Need Is Kill』今回の特集ページは作者の桜坂洋さんを迎え、執筆秘話を熱く語ってもらいました。
For Loop War 物語はループす
 
---- ゲームから話を思いついたそうですね。
桜坂   はい。ですが、ゲームと小説の物語ってのは違うと思うんですよ。
---- どう違うんですか?
桜坂   体験の仕方っていうか……小説は、作者が用意した物語を作者が用意した視点で作者が意図した順どおり体験するでしょう? 一方、ゲームは、与えられた目的を達成するための思考をするんです。思考とトライアルアンドエラーが体験。
---- でも、例えばRPGにはシナリオがありますよね。ドラゴンクエストなどは物語性の高さも評価されています。
桜坂   プレイしてるとき、プレイヤーはシナリオを意識してないんです。プレイ中にプレイヤーが持っているのは問題を解決する目的意識で……目的を達成してはじめて、キャラクターの行動が物語となっていたことに気づくように設計されているんですよ。最初からシナリオが透けて見えていると、決められた道を歩いている気分になっておもしろくないでしょう?
---- いわゆる紙芝居ゲームになっちゃうわけですね。
桜坂   ゲーム内で順ぐりに発生するイベントをそのままノベライズしても、プレイしたときの興奮を読者に擬似体験させることはできないんじゃないかと。だから、同じ物語(シナリオ)を搭載していても、ゲームと小説の物語は異なった見えかたをするんじゃないかと、そんな風に考えたんです?
フローチャート

オール・ユー・ニード・イズ・キル フローチャート
---- そういえば、無駄な経験値稼ぎや試行錯誤は、イベントには含まれていませんね。
桜坂   経験値稼ぎや試行錯誤ってノベライズでは省略されるでしょう。たぶんそれは小説として正しいんですけど、でも、実際のゲームではその無駄な部分がまさに重要ですよね。いまの百倍は時間が濃密に流れていたガキの時代、特定アイテムゲットのためのリセット&ロードに費したひとときは、物語を追いかけるためなんかじゃなかったよなあ、なんて思って。でまあ、プレイヤーが経験した努力・友情・勝利! みたいなものに主眼を置いて、ゲーム内で進行する物語を組み立てなおしたらどうなるんだろう? と考えたんです。もちろんそれは、作者であるわたしが用意した順でしか体験できない小説式の物語なんですけれど……。
---- 話が繋がってきました。それで『All You Need Is Kill』を思いついた?
桜坂   はじめに頭に浮かんだのは『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』なんです。あと、『恋はデジャ・ブ』と『ターン』。どれも1日がループする話で……戦争シミュレーションのプレイ日記を読んで頭に浮かんだのが学園物と恋愛物だというのは自分でも変だと思うんですが、とにかくそうでした。
---- 『All You Need Is Kill』は学園物じゃないですよね?
桜坂   戦争物です(笑)。でも、戦争したことないですから、戦争ってのが実際にどんなものなのか良くわからないわけです。せいぜい知ってるのはテレビ画面の中でばしゅばしゅ飛んでくミサイルくらいで、なんだよこりゃマッドブラストにあるフラッシュのほうがよくできてんじゃねえか程度の認識で、それでもどこかできっと誰かが死んでるわけでしょう。だけれどやっぱり、わたしは、出撃する前のドキドキって遠足の前日とどう違う? くらいにしか思い描くことができないんですよ。
---- 妄想プレイみたいですね。
桜坂   まさに妄想プレイですよ。それが痛いのか甘いのかうるさいのか本当はぜんぜん知らないんですから。じゃあいっそのこと、出撃する前日は文化祭の前日と同じくらいドキドキすることにしちまえって……そしたらほら、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』は、文化祭の前日が繰り返す話じゃないですか。「出撃前日が繰り返す話にしたらどうだろう?」って思ったんです。これなら、繰り返し=リセット&ロードと捉えることで、プレイヤーの経験を擬似的な物語にすることもできますし。
A Boy Meets A Girl 彼と彼女は戦場で出会
---- タイトルが特徴的です。
桜坂   中学時代、クラス別に組分けする運動会があったんですよ。その得点表の横に、「All You Need Is The Points」と書いてあって、ちょうど英語の文法を習った頃でallの使いかたにえらく感心したんです。
---- 有名なロックグループは関係ない?
桜坂   字の下には、二メートル四方くらいの大きさで外人の男四人が歌っている姿が描かれていました。それが、ものすごくものすごくものすごく有名なロックグループのアルバムの模写だと知ったのはずいぶん後になってからです。だから、わたしにとって「すべて」なのは「愛」じゃなくてもっと殺伐としたものなんです(笑)。
---- でも、ラブストーリーですよね?
桜坂   そうなんですか? そうなのかなあ。
---- 戦場の切ない恋を意図してたんじゃないんですか?
桜坂   何度会っても次の日にはリセットされちゃうわけだし……まあでも、繰り返しプレイするギャルゲーがラブストーリーなら、この話もそうだと言えるかもしれません。それとも、イラストに助けられたのかな? 安倍吉俊氏が描いてくださったケイジとリタの邂逅シーンのカラーは、文章が脳内に生みだすイメージを越えちゃってますよね。
Starship Troopers, Long Long Ago むかしむかし、宇宙にいた戦士
桜坂   わたしは人殺しが大好きなんです。
---- 毎度毎度スレスレの発言ありがとうございます(笑)。
桜坂   真っ赤な血と肉と悲鳴も欠かせません。アニメやゲームでは真っ赤な血糊にNGが出たりすることがあるそうですけど、出ない殺人のほうがよっぽど教育上よろしくないですよね。
---- ちょっと判断がつきかねますが……。
桜坂   ヒトだってブタだってニワトリだって、切ったら血が出ますよ。どばっと血が出て死ぬから、ああヤバイもうしないようにしようって思うんじゃないですか。だいたい、ゲーム世代は表現がゲームっぽいだのなんだと文句を言うジジババがいますけど、ガキの頃ゲームばっかやってたんだからしょーがないですよね。文句言うんだったら、わたしがガキだった頃にぶ厚い表現力がつく体験を用意しとけってんだぺぺぺぺぺっ。
---- わかりましたからシリアルキラー話はそのへんまでにしてください。
桜坂   すみません。興奮しました。
---- それでは、先日の山本弘氏との対談では先達のSF作品をいくつか挙げていたようですが、『All You Need Is Kill』はそれらの作品のオマージュなんですか?
桜坂   オマージュっていうか、中高生のときにSFばかり読んでたんです。だから、脳内引き出しを開けるとそんな作品ばかり出てきちゃって。もうちょっと文芸作品を読んでおくのだったと今になって反省しています。
---- 特にオマージュはない?
桜坂   登場する軍曹には『宇宙の戦士』に出てくるズイム軍曹が入ってます……ハートマン軍曹も混じってますけど。あと、主人公は『終りなき戦い』でヒロインが『エンダーのゲーム』かなあ。侵略戦争物っていうと、最近ライトノベルで有名なのは高瀬彼方氏の『ディバイデッド・フロント』だったり伊都工平氏の『天槍の下のバシレイス』だったりすると思いますが、いま言った3作は古典の名作ですから、努力と根性で異星人と戦う戦争物が好きなかたは是非読んでみてください。
---- 他社の本の宣伝ばかりしてますね。
桜坂   だって、異星人と戦う話なんて各ラノベレーベルにひとつありゃ十分でしょう?
---- ミもフタもない意見ありがとうございました。
Ender 終わりに
実は、冒頭の“とあるゲーム”、買っただけでまだやってません。
色々な意味でごめんなさい。
次の原稿が終わったらやることにします。(桜坂)