クロニクル・レギオン

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アイーシャ夫人の不思議旅行記

 みなさん、こんばんわー。
 わたくしの名前はアイーシャ。趣味はお料理と旅行、職業は旅人で、年齢一七歳☆ どこにでもいるふつうの女の子です。
 ただ、ほんのちょっとだけ秘密がありまして。
 わたくしには、すこし不思議な……時間を旅するSF風味の力があるんです♪
 いつも旅してばかりのわたくしですが、今日は初めて来る場所に迷いこんでいます。そして残念ながら、『ねえねえモ●タン、ここはどこ?』と訊いても答えてくれるマスコットはいないのです……。
 えっ? モグ●ンがわからない?
 まあ、日本ではとても有名な国民的マスコットキャラだと聞きましたのに……。
 すこし調べてみてくださいな。そうそう、ググるというあれです。
 あ、わかりましたか。ふんふん。モグタンは一九八〇年代、長期に渡って放送された教養アニメ番組に登場するキャラクターですか……。いろいろな物事のはじまりを勉強するためにタイムトラベルしちゃう『まんがはじめて物語』で、ヒロインのお姉さんをナビゲートする豚っぽいゆるキャラ……。二一世紀とは関係ない、ン十年も昔のキャラ――。
 な、なんですか、その目は?
 わたくし、先ほども申し上げたとおり一七歳の乙女です。
 この知識はそう、当時の日本を時間旅行した際に見聞きしたもの……何かをごまかしているとか、変な邪推はおやめになってくださいましっ。
 あっ。あちらに人がいらっしゃいます。
 話をうかがってみましょう。すみませ~~~んっ!
「おや。我がアキテーヌの宮廷に見知らぬお嬢さんがいらっしゃる。ふふふふ、どこから迷いこんだのかな?」
 まあっ! 現代日本で言うところのイケメンさんがいらっしゃいます!
 しかも『超』を付けてもいいくらいですっ。銀髪で、とても優雅で……日本のみなさまにわかりやすく言うと、超人気イラストレーターのBUNBUN画伯が描く美形キャラみたいな美男子さんです!
「……君は一体、何を言っているんだ?」
 ふふふふ、申し訳ありません。
 あのー。あなたのお名前、うかがってもいいですか?
「ふむ。まあ、いろいろひっかかるところはあるが、いいだろう。僕の名はエドワード。黒王子と呼ぶ者もすくなくない」
 あ、あなたがあのブラックプリンス! エドワード王子なのですね!?
「いや、なに。僕の地位と名声は英国王である父の七光りゆえでね。そのように賞賛されるほどのものでは――ふふふふ」
 まあっ! 口では殊勝なことを言いながら、ものすごい『どや顔』です!
 この人、きっと心のなかでは『そんなことありませんよ、王子さまー』とか言われるの、絶対に心待ちにしていらっしゃいます!
「あー。君、そういうことを大声で発言しないように」
 す、すいません。つい興奮してしまいました。うふっ♪
 御高名はかねがね、うかがっております。弱冠一六歳でのぞまれた宿敵フランスとの会戦では、将軍のひとりとしてお父上を助けられて、勝利に大きく貢献されたとか。
「いやいや。ほんのすこし運がよかっただけだよ、うん」
 一〇年後、ポワティエの戦いでついに総大将としてフランス王の軍と対決。
 わずか六千の兵で敵軍三万を撃破し、ヨーロッパ本土におけるイギリスの優位を確立させた立役者だとか。
「そう――だね。僕なくして今日の栄光はイギリスにもたらされなかった。そう語る人もいる。やや大げさだとは思うが、否定しづらいところはたしかにあるかもしれないな……」
 ちなみに、ですね。
 この方は一四世紀の中世ヨーロッパ、イギリスの王子様なのですが。
 栄光の絶頂を味わっていた頃、カスティーリャ王家に助っ人を頼まれて、無駄にスペインまで遠征するのです。そこでもあざやかに勝利したのですけど、さんざん軍資金を使って、おまけに病気までもらってきちゃうんですね。
 それがもとで領地の財政は傾き、御本人はそのまま病没しちゃいます。
 ほんのちょっと調子に乗りやすいところのある人で、それが引き金になって、人生の階段を転がり落ちちゃうんですねえ……。
「ん? 何をぶつぶつ言っているんだ?」
 いえいえー。何でもないんですよー、うふふふふふー。
 でも、本当に光栄です。こうして黒王子エドワードさまにお目にかかれるなんて。
「ふふふふ。なかなか正直な少女だな、君は……む?」
 あら? どうかなさいましたか?
「君は本当に少女なのか?」
 な!? 何をおっしゃいます、ウサギさん!?
 わたくし、このとおり花も恥じらう乙女ではありませんかっ。そんなにじろじろ顔を見ないでくださいな!
「失敬。君が十代の少女には見えなくて、つい、ね……」
 ええっ!?
「実を言うと、僕は上か下かで言えば、歳上の女性を慕わしく思う男なんだ」
 そ、そういえば、王太子のくせになかなか結婚しないでいて、ついに選んだお相手はバツ二の姉さん女房でしたね。絶世の美女だったという……。
「ご婦人は齢を重ねることでより賢く、美しくなっていく。そうだろう?」
 た、たしかにそういう意見もあるかもしれませんがー。
「それが僕の信念なんだ。そして、そういう男である僕の直感が告げている。一見、僕の妹にさえ見える君だが――決してそんなことはなさそうだ、と」
 ひいいいっ。
 一七歳! わたくし、花も恥じらう一七歳の乙女ですよーっ!
「いいや。僕の鑑定眼を舐めないでもらおうか。一七、一八、一九……む? まだまだ上昇していくだと? やはりそうか!」
 乙女の秘密を戦闘力でもはかるみたいに計測しないでくださいな!
「見えた。君の実年齢はそう、おそらくよ――」
 いやあああああああああああああっ!
「なにっ!? いきなり天井が崩れた!?」
 今回の時間旅行はここまで! みなさま、ご静聴ありがとうございましたーっ。