集英社ライトノベル新人賞
第12回(2022年)
王道部門
最終選考委員講評

(2023.3.19)

丈月城 先生 総評

リニューアル期間をはさんで、ひさびさの新人賞審査となりました。
 最終選考の候補作、ひととおり読んで思ったことは、

「君たちは『世界』をどこまで作れているかな?」

 でした。
 これ、ファンタジー作品がわかりやすいですね。
 オリジナルのファンタジーを書くということは、ひとつの異世界の創造にほかなりませんからね。でも、現実世界を舞台にする作品だって実は同じです。
 そこは地球上のどこの国なのか?
 どの時代なのか? 主な舞台は学校、農村、宮廷、ご家庭、闘技場? どんな人たちが暮らしているの? 超能力はあり? 魔法は? 指先ひとつで岩をも砕く暗殺拳はある? 運命の赤い糸で結ばれたふたりは一目会った瞬間にわかりあえる、あえない?
 ファンタジーでもいわゆるナーロッパ?
 それとも、いつだって勧善懲悪の時代劇? 名探偵や熱血刑事たちがいるような、週に一度は殺人事件が起きるご町内?

 そこらを踏まえつつ、各作品を見てまいりましょうか……。

【作品講評】

『その男、親馬鹿につき』 /
 美貴大輔

なんとも初々しい作品です。
 読んでいて、何やらワインのテイスティングをしている気分になりました。
「ほおう――原材料のブドウはナーロッパでよく使われる品種。そこに某人気ゲーム会社風のスパイシーな香りが加わって、ん、これはもしや……タイムマシンにおねがい? おお、なんてフレッシュで初々しいワインなんだ!」
 と、微笑ましい気持ちにさせられました。
 本作が描き出す世界は、作者の好きであろうもので満ちています。
 ナーロッパ的ゲーム世界風ファンタジーで、主人公無双で、娘たちにも美女にもモテモテのヒーローで、過去の悲劇があって、どこかで見たような技やら魔法やらが急に出てきて、ときどき唐突にバイオレンス&エロスで……。
 ある意味、これこそが創作の原点。
 己の好きなもので作品世界を埋め尽くし、創造主としてのよろこびを大いに満喫できる遊び場の顕現です。  が、初々しい=発展途上でもあるわけで……。
 ここはプロへの登竜門となる新人賞。
 創作で食べていくクリエイターをめざすための作品ならば、さらなる工夫をもう一ひねり、二ひねり、創造主に加えてもらう必要があるでしょう。
 本作品はナーロッパものに似たテイストのファンタジーですが。
 似てはいますがそのもではなく、かといってオリジナルのテイストが強くもなく、まだまだ熟成を要する世界だと感じました。
 作品ジャンルごとに何を書くべきか。勘所はどこなのか。
 そこを見極められるようになると、たぶん次のステップに進めますよ。

『魔法少女スクワッド』 /
 悦田半次

おお――うんうん。
 楽しい楽しい。面白い面白い。
 今回の第一席は文句なしに本作です。以上。……で終わりにできたらラクなのですが、さすがにこれでは講評になりません。
 もうちょっと細かく書かねば……でも、あまり書くことないな(笑)。
 それくらいクオリティがしっかりしています。
 魔法少女+バトルものという既存フォーマットに乗っかった作品ですが。
 作者はその定型をしっかり自分のなかで咀嚼し、一回ゼロにして、オリジナルの作品としてきっちり仕上げております。
 キャラも生き生きと立っている。その掛け合いも楽しい。
 バトルや物語の展開も「お、そう来たか」とばっちり楽しませてくれました。
 あ、男性向けレーベルで魔法少女ものをやりたがる作者は、読み手が男性メインであることを失念しているケースも多いのですが、この作品はそのあたりも考慮した構成でした。作者のインテリジェンスを随所に感じる良作です。
 あとは、自らの作家性と商業性の両立、などでしょうか。
 これはプロのクリエイターなら誰しもが直面する課題。未来ある作者が自身の才能と作品で選び取っていくもの。
 われわれ外野がとやかく言うことではありますまい。

『褐色娘のラティーネさんに俺の体が狙われている』 / 岸馬きらく

本作は作品世界を作る段階で、書く難易度をどかんと上げております。
 看板となるテーマは『超セクシーな女の子がぐいぐい求愛してくるラブコメ、いえいえ、過激上等のエロコメだよ☆』なのですが。
 実は二階建ての構造でして。
 土台となる一階部分はビルドゥングスロマン。
 性欲を持て余し気味の少年が青春の挫折やらエロ心やらでうだうだしてたけど、ある体験を機にすこし成長し、大人の階段をのぼる――アレです。
 で、二階部分が前述したエロコメ。
 こちらは読者サービスに徹してなんぼ。青春男子の微エロ心だの葛藤なんて邪魔や、読んでるワシらの心を満たせや! 言いわけしとらんで早くヤれ! ヤらんのかヘタレ! と、受け手の要求がきわめて厳しいジャンルです。
 ……この組み合わせは相性が悪い。
 青春とエロの比重をどうコントロールするのか?
 クレバーさと技量、あるいは、理屈抜きで無茶を押し通す豪腕などがあって、はじめてクリアできる難関ですが――
 残念ながら突破はならず、でした。
 青春ものとしては「とりあえず」的インスタント感が拭えず。
 エロコメとしては……純粋にエロくない。文章でエロを表現する難しさに向き合わず、下ネタ等でお茶を濁した感が――。「おっぱいが大きい」と書くだけでは、今どき中学生でもよろこんではくれません。
 そして、コメディとして機能していない。
 アダルトビデオやコミックの話、下ネタ、おじさんや男子中学生だけでゲラゲラ盛りあがる系のネタ話(同じ空間の女子は超・眉をひそめている)が連発されるけど……笑いを生み出してはいないかな……。
 とはいえ、難しいチャレンジをしたスピリッツはよしとしたいところです。

(敬称略、順不同)

山形石雄 先生 総評

ここ数年の新人は、本当に技術水準が高いと感じています。特に今回審査することになった三作は、どれも未熟さを感じさせる部分が全くなく、これが今の新人なのかと驚かされました。毎度のことながら、順位をつけるのに頭を抱えております。
今回の審査に関われたことを光栄に思います。作者の皆様の活躍を心より願っております。

【作品講評】

『その男、親馬鹿につき』 /
 美貴大輔

この作品の魅力はどこにあるのか、読者に何を楽しんでほしいのか、というコンセプトがしっかりしている作品だと感じました。
ひたすら親馬鹿でありながら異性にも好かれまくる、という主人公像は賛否のわかれるところかもしれませんが、好きな人は間違いなくいると思います。狙う層をはっきりと想定している点からも、読者のことをよく考えて創作に取り組んでいることがうかがえます。
悪役を好感度が一切無い下衆に設定したこともよい判断だと思います。悪役を成敗する場面は痛快でした。
全てを主人公に解決させるのではなく、娘の見せ場も丁寧に作っている点も好印象です。
強いて欠点を上げるとすれば、追い詰められた主人公が問題を解決していく過程がいささか単調だと思いました。

『魔法少女スクワッド』 /
 悦田半次

高水準にしっかりとまとまった作品だと感じました。
文章は読みやすく、場面構成も的確で作者の高い技量がうかがえます。特に序盤に主人公が戦いに巻き込まれていく過程は、コンパクトにまとめながら、しっかりと読者が感情移入できる展開になっています。主人公が戦わなければならない状況の構築は見事だと感じました。
後半に物語のキーマンとなるキャラクターが正体を現す場面もうならされました。ヒロインとしても物語世界をかき回すトリックスターとしても秀逸なキャラクターで、続編を描くとしても彼女がいれば大丈夫だと思います。
惜しい点としては、中盤にやや中だるみがあったように思えます。先述のキャラクターが登場するまでは敵側に面白みがなく、物語をけん引する力が不足していたように感じました。
また、戦闘シーンやクライマックスシーンにもコメディ的な要素を持ち込んでいる点も気になりました。笑えばいいのか緊張感を持てばいいのか、不明瞭になっている気がしました。

『褐色娘のラティーネさんに俺の体が狙われている』 / 岸馬きらく

惜しい点はあるものの、光るものも大いにある作品だと感じました。
会話シーンの巧さ、特に主人公のツッコミ力の高さがすばらしい。動きのない場面や平凡なシーンも飽きずに読み進めることができました。
登場人物の造形も評価すべき点だと思います。主人公は駄目だけど嫌な奴ではなく、会話の端々から相手への気遣いや良心が見て取れます。脇役陣も善性の垣間見える良いキャラクターになっていて、辛辣な言葉やどうかしている言動にも不快さを感じません。そのため終盤からラストにかけて、さわやかに読み進めることができました。
惜しい点としては、メインヒロインのボケがどうにもワンパターンに思えてなりません。申し訳ないのですが、中盤の脇役がらみの話のほうが面白いと感じてしまいました。
サブヒロインも面白いシーンはあるものの大きな存在感を見せることができておらず、主人公のリアクションとツッコミ力頼りで話を回している印象を受けてしまいました。

(敬称略、順不同)