残念ながら今回は入選なし、
最高で佳作という判断とさせていただきました。
厳しいと思われるかもしれませんが、
私は、純愛・ラブコメというジャンルは鉄板であるがゆえに
オリジナリティを発揮するためにセンスが問われ、
作家本人に求められる筆力も高いと考えています。
最終選考まで残った作品はいずれも才能の片鱗を感じさせるものでしたので、
今後の取り組みによってさらに面白い作品を生み出してくれることを期待しています。
最終選考作品はいずれも丁寧で平均レベルの高さを感じつつ、
一方で鉄板の題材を鉄板の通りに調理している印象が目立ちました。
文章・ストーリー構成・ネタの組み合わせ方・世界観・設定・キャラクターなど、
何かひとつでもいいので既存の商業作品と比べて
明確に上回っているなと感じさせる強い武器が欲しかったです。
ラブコメといえば現代、現代ラブコメといえばこういう展開、
ラブコメのヒロインといえばこういうキャラ、といった枠組みから踏み出しきれていません。
もちろん安心感のある読み味を提供できることも作家としての武器になり得るのですが、
そこを目指すのであれば自然と読者の要求ハードルも上がります。
もっと高次元のクオリティを安定して発揮できないと、
その分野で読者に評価されるのはとても難しいと思われます。
せっかく表現できる幅の広いライトノベルという媒体なので、
新鮮な読み味、その作家ならではの演出、
強く興味を惹かれるキャッチーなアイデアから成る
ラブコメ・恋愛物語を追求していってほしいなと思いました。
又、主人公がヒロインに引っ張られるままになっている作品が多く、
もうすこし主人公が主体的に活躍するところだったり、
主人公のおかげでヒロインが救われるシーンも描いた方が読者は嬉しいと思います。
主人公、ヒロインどちらについても、
多角的、かつ、深く、人間関係を描けるともう一段レベルアップできるのではないでしょうか。
『女装したボクは誰よりも可愛いのに』 / 衣太 | |
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中盤から後半にかけて女装×男装のデート等、ドキドキするイベントが盛りだくさんでヒロイン・ウロさんの魅力も十二分に描けていました。ただ、物語の立ち上がりの前半部分はやや退屈で、キャラの魅力を表現しきれておらず、もったいなかったです。又、ラスト手前のヒネリの部分(ウロさんの過去が明らかになる部分や母親の登場など)が、うまく機能していなかったのが残念です。展開が駆け足になりすぎてしまっていたり、じゅうぶんな布石を用意できずに展開してしまった部分が目立ちました。ここで読者に「おっ」と言わせるためには、前半のうちに仕掛けを施しておく必要があるかと思います。又、性格上しかたのないことではあるのですが、主人公がウロさんに引っ張られるままになっており、彼自身の強い決断や行動がなく、カタルシスの物足りなさに繋がっています。女装状態の魅力はもちろんのこと、主人公本人の人間的魅力や変化をもっと強調して表現してあげるとより良くなりそうです。 |
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『俺には幼なじみがいる。俺には幼なじみがいる。』 / 多少雑多 | |
軽妙な文章とキャラの表面的な魅力を描ききれているのはとてもよかった。文章による演出も上手く、引き出したい読者の感情を引き出すための文章構成ができている。随所で「ここで読者を楽しませよう」と意識している文章やセリフが見られ、そこは長所だと思うので引き続き伸ばしてほしいです。ただ、キャラについては美花は陰キャ、美星は陽キャ、主人公はスケベ、という一面的な特徴を表現するだけで留まってしまった印象があり、非常にもったいない。表面的な魅力を保ちつつ、二面性を上手に見せていく工夫が見たいです。 |
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『推しが僕を好きになるわけがない!』 / 猛烈ケイスケ | |
推しとの関係性や距離感を題材とした点は同時代性があり、良かったです。又、主人公の成長物語を描こうとする姿勢や意図は強く感じましたし、痛いところや葛藤の描写からも逃げずに書き切った点は好印象でした。一方で、全体的に粗削りといいますか、もう一歩完成度を上げてほしいというのが正直なところです。 |
(敬称略、順不同)