集英社ライトノベル新人賞
第13回
王道部門
最終選考委員講評

(2023.3.19)

丈月城 先生 総評

最終選考まで残った応募作は二本。

そして、奇しくも同じ弱点『構成に難あり』を抱えた二本でした。

審査員の相方である山形さんは、年々慈父のごとき優しさをいや増しており、たぶんその辺にはつっこまず、愛情あふれる講評を書かれていると思うので、こちらは小説道場の先生モードで評してみましょうか……。

さて『構成』。いわゆる起承転結・序破急・三幕構成などですね。
ひたすら新しい話を更新し続ける投稿サイトや、キャラの掛け合いを延々書くこと中心のショートストーリーなどとちがい、一本の短編・一冊の長編は『構成』を勘案しつつ執筆しないと、クオリティが減じてしまいます。
ま、どんなメソッドを使おうと、いい作品ができれば、それが正解の構成。

でも、今回の二作品はそこがどちらも不十分で――

たとえば二本とも、冒頭から情報開示の嵐です。頻出する固有名詞、世界情勢、主人公の暗い過去、出まくる脇役、伏線……おお!
君たち、それはまだ早い! 焦りすぎ!

例えるなら
「毎朝、同じ電車で通学する他校の女子に恋しちゃってる俺だけど、今日はじめて改札で話しかけるチャンス!『ずっと前から好きでした!』と言っちゃった!」くらいの先走りです。
そういうのはやっぱり、もっと親しくなってからじゃないと。

無論、導入部での情報提供は大切なタスクです。でも、導入部だけに情報の量と提示方法には気配りが必要で……。

【作品講評】

『第442亜人兵団』 /  齊藤瑛研

光りそうなものはあるけど、光っていない。
そこがもどかしい作品でした。たとえば兵学校での青春模様を描いた前半部、本当に必要だったのか。キャラが多くて個々を描き切れていない印象ですし、ひたすら独自設定の説明に終始する場面も目立ち、エンタメ性は今ひとつ。キャラ多すぎ問題の影響で、青春ものとしてもだいぶ物足りない。
このやり方、ゲームならありなのですよ。
学校内でマイキャラを動かしつつ、選んだ脇役キャラとなかよくなり、ややこしい戦闘や魔法の使い方を学習して、実戦や演習。往年の名作ガンパレードマーチやペルソナシリーズでおなじみのやつですね。
でも、一冊の長編小説ではそりゃあ無理が出ます。
しかも本作、「ここからが本番!」という後半から、あからさまに息切れしてきます。
キャラの動きが減り、セリフが減り、描写が減り――
特に終盤の雑さには「描きたいことはわからんでもないけど……ちゃんと書け! ここに手をかけなくてどうする!」と、ツッコみたくなりました。
導入部・前半・中盤・終盤には、各々ふさわしい書き方があるのです。
そのことを踏まえた上で丸々リライトして、十分なクオリティが出せれば、あるいは化ける可能性もあり――という所感です。

『鉄血の修道女』 /  4kaえんぴつ

詳細に書く必要のないところを書き込んでしまう。
だからテンポが悪くなる。その悪循環に陥っている作品でした。これは文章力より『構成力』の問題でしょう。
各々の場面をどこまで描写するか、どこで切り上げるかの判断。
設定の説明や情景描写よりも、まず「読者に訴えかけるテキスト」です。
そして、最大の問題だと感じたのは、
「作者の描きたい物語に適したプロットが構築されているか?」
血と硝煙の臭いがくすぶるハードボイルドな暗殺アクションが本筋。
でも、合間合間に主人公とその関係者のほのぼの幕間劇が挟まれる……これ、「ハードボイルド>>>ほのぼの」だったのがミスマッチな印象で。
ほのぼの部分は、そこそこ書き慣れている感じなのです。
でも、重心を置いているハードボイルド部分がいかにも借り物な出来映え。特に「師匠」、物語を都合よく回すための装置でしかなく残念――。
あと「妹」も、作中どこかで殺される方がハードボイルド的には妥当。
主人公に爆発的な動機が生まれ、復讐譚としてのカタルシスが爆上げです。何なら師匠が妹を殺す展開にすれば、恩人への復讐・愛憎という奥行きが――。
登場キャラは(主人公ふくめて)全滅エンドもありでしょう。
このジャンル、書き手がどこまで「悪魔」になれるかも肝なのですよ。
ほのぼの平和な日々は、全てその後の生き地獄の前振りにすべしという……。
あくまでキャラを大事にしたいのなら、ハードボイルド要素はスパイス程度にとどめる方がベターでしょう。
一本の小説としての「構成」と、描きたい物語にふさわしい世界の「構想」。
闇雲に書きはじめる前にそのあたりをイメージしてみると、またちがった結果が出てくる可能性もあると思います。

(敬称略、順不同)

山形石雄 先生 総評

残った作品は二作とやや少ないものの、どちらも作者の才能を感じ取れる作品で、実りある選考であったと思います。
今回の審査に関われたことを光栄に思います。両名の活躍を心より願っております。

【作品講評】

『第442亜人兵団』 / 齊藤瑛研

大変な傑作であると感じました。
作品全体に流れる無常感と、非情な世界の中で描かれる人間の善性は、他にない素晴らしい魅力だと思います。
淡々とした筆致は作者の独特の美意識がうかがえます。
学園生活の中で世界観やキャラクターの人物像、背景が無駄なく描かれており、作者の技量に驚かされました。前半の厳しくもユーモラスな展開と、後半の怒涛の戦いの落差はまさに衝撃的でした。
終盤の人間性を失った勇者たちの戦い、その後に語られる真相は、素晴らしいの一言です。
この作者の書くものをもっと読みたいと思える作品でした。

『鉄血の修道女』 / 4kaえんぴつ

輝くものはあるのですが、技術面での不足が目立ちました。
全体的に丁寧な描写を心掛けているのは良いのですが、そのせいでストーリーが間延びしているように思えます。
キャラクターは好感が持てるものの、主人公たち以外の描写が平坦で、物足りなく感じてしまします。
序盤に主人公の置かれている境遇を描くことに力を入れすぎていて、読者を引き込む力が弱くなっています。
良かった点としては、戦闘シーンは読みごたえがありました。緻密な描写が緊迫感を生んでいたと思います。
また終盤に描かれる師弟の信頼や、タイトルの意味が分かるシーンには熱いものを感じました。

(敬称略、順不同)