今回、非常にレベルの高い最終選考作を読ませていただきました。
どちらの作品も文章力などの地力の高さが感じられるだけでなく、作品独自の世界観を持ち、それでいてただ設定に振り回されることなくしっかりとその世界の中で生きている人物たちを描き切っていました。
文章の端々から人物の魅力を余さず描き切ろうとする情念を感じ、題材の選び方や世界観の構築の仕方には固定概念にとらわれずに発想の枝を伸ばそうとする自由さを感じました。
今回最終選考に残ったお二人なら、初心を忘れずに創作と向き合い続けることさえできれば、きっとプロの作家になってからも良い作品を紡ぎ続けることができるのではないでしょうか。
もちろん見えてくる課題もたくさんあると思いますが、担当編集者と一緒により良い作品を世に出せるように邁進していただけたら嬉しいです。
ライトノベルという媒体で時折ささやかれる「ルールのようでルールでも何でもない何か」があります。
たとえば「女性主人公は推奨されない」といったような話、あるいは「オリジナル設定が多いと読者が嫌がる」といったような話です。ですが、そんなことは関係ないのです。
そういった特徴を持っていても面白い作品はある、ライトノベルだからとか、そういうくくりには何の意味もない、ただただ小説として魅力的かどうかが大事である……と、それを証明してくれる作品たちだったと思います。
『君の心は物理的に宝石で、あの海の色をしたサファイアである』 / 穂積潜 | |
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感情がタマイシとして露わになっている世界と感情を取り戻すための旅、という物語アイデアはとてもユニークで興味深く楽しく読ませていただきました。主人公とヒロインの二人の人生、物語に対する愛情も強く感じ、大切に書かれた作品なのであろうと察するところです。 |
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『神様の眠る場所』 / 立春佑希 | |
とても素晴らしい作品でした。何度か涙腺が緩んでしまうようなグッとくる場面があり、読後感も非常に心地好かったです。日本の神々の在り方に焦点を当てた独特な世界観ながらも文章力や登場人物の描写、心の流れ、物語の構成力といった地力が高いため、物語にどんどん引き込まれていきました。主人公(あえてヒロインとは書きません)のマユの描写がとても魅力的で、気まぐれな猫の感性と年頃の女の子の感性がミックスされたような言動や心の流れ――反抗期のようでありながらもきちんとなついてもいるという様子がこれほど解像度高く描かれているのは見事というほかありません。小さい頃から一緒に過ごしながらも思春期ならではの照れくさくて距離を空けてしまう様など、初々しい姿をこれでもかと見せてくれたおかげでいつの間にか主人公たちのことを好きにさせられていました。 |
(敬称略、順不同)