集英社ライトノベル新人賞
第14回
王道部門
最終選考委員講評

(2026.3.19)

丈月城 先生 総評

今回、最終選考まで残った作品は2本。
双方とも最初から最後までテキストを丁寧に書き切って、誠実に作品を仕上げた姿勢に好感が持てます。
しかし奇しくも、同じ欠点を抱えた2本でもありました。
すなわちキャラの弱さ、展開の弱さ、何より『解説したがり病』。
……先述の「丁寧に書き切って」には含みがありまして、意訳しますと、
『キミたちの授業態度はまじめでいいなー。ほんまにええ子たちやー。でも、ノートに書かんでもいいこと書きすぎやなー。書かなくても伝わることってあるし、書かずとも伝えるのがプロの技ってものやでーっ!』。
ただ丁寧&饒舌にテキストを綴るだけなら、生成AIにだってできます。いや、むしろAIの方が未熟な人間よりもだいぶ達者です。あいつら、最近では起承転結の構成だって器用にこなしてますよ(短編程度ならね)。
もはや人だけがライバルではない時代。危機感を持っていきましょう!

【作品講評】

『巨星ラファロエイグ』 /  前藤たんか

力作でした。
熱い剣術&タッグバトル、パートナー同士の熱い絆、努力する女子たちの情熱とひたむきさと健気さ……等を描きたい意欲が伝わってきました。でも十分に描けてない! 描けていないんです!
やはり先述の解説したがり病がよくない。
まずテンポが悪くなるし、設定語りの労力をキャラの深掘りやイベントの表現などに使って欲しかった。
例えば作中で『エロい』と評されるキャラ、「本当にエロく描けているか?」。
ただ『彼女の下着姿はエロい』とテキストにするだけでは、作者の脳内にある「設定」を開示しただけです。小説の表現として十分かどうか……?
いや、出番の少ないモブやSS形式の掌編ならいいんですよ。
『佐藤さんはエロい雰囲気のある美女だった』『スミス氏はとてもとても強い、元レスラーだった』とかでも。
またはこれがゲームや最近のネット系小説なら『筋力3 体格2 すばやさ7 エロさ9』とかパラメータを提示すれば、「こいつ体は雑魚いけどスピードがあって、とにかくエロいです!」という、簡易なキャラ描写としてアリはアリでしょう。
本作を分類するなら『ガールズをエンパワーメントする熱血友情バトルもの!』。それにふさわしい文体と表現を追求して欲しいと思いました。
若手の人間小説家には、AIなど軽くぶっちぎる成長を期待しています!

『夜明けを告げるアウローラ』 /  水杉めたせこいあ

こちらの作品も『ガールズをエンパワーメント』系の女性主人公もの。
ダッシュエックスの新人賞では珍しい偶然でした。
ただし、世界観はこちらの方がずいぶんと複雑で――
その複雑さを語るべく、いきなり解説したがり病が発症します。
冒頭から歴史を語り、設定を語り、キャラの暗い過去を語り、キャラ自身が己の心情を長々と語り、中盤・終盤までずっとその調子……。
劇中はまさに、字幕と副音声での解説付きテレビ状態。相当に情報過多です。
いやいや! 創作の世界ではね、いっそ最終回のあとまで『タネ明かししない』だってアリなのですよーっ!
複雑な世界情勢よりも『情熱が空回りするヒロインの悪戦苦闘』『それでも一歩ずつサクセスしていく過程』『しかして彼女は残酷な世界の悲劇と直面し――』みたいなドラマをもっと波瀾万丈に書き込んで欲しかった。
小説には読者がいることを意識して、ぜひ再チャレンジしていただきたい!

(敬称略、順不同)

山形石雄 先生 総評

今回最終選考に残った二作はどちらも個性的な作風で、技術的な水準も十分に高いと感じました。
光る点は多々あるとも思います。しかし残念ながらどちらも、首をかしげざるを得ない部分のある作品でした。
最終選考に残った両名の、さらなる飛躍と活躍を応援します。

【作品講評】

『巨星ラファロエイグ』 / 前藤たんか

戦闘描写の巧みさが目を引く作品でした。極めて難しいはずの複数人による複数陣営の戦いを、読者を混乱させずに描けていることは素晴らしい技術だと思います。視点の切り替えがとりわけ上手く、情報を整理しつつ読者の心をしっかりつかめていると感じました。
戦闘の内容も単純な力押しではなく、決着までの流れをロジカルに組み立てられているのは素晴らしい長所です。
ただ戦闘以外の描写に物足りなさを覚えます。主人公の故郷の苦境や、研闘師の本来の任務であるはずの闇との闘いに関る描写などがあっさりしすぎていて、主人公たちがどういう環境で何のために戦っているのかあいまいになっていた印象です。
また主人公同士の関係性や、ラスボスと主人公たちとの因縁なども今一つ盛り上がりに欠け、せっかくの優れた戦闘描写が生かし切れていないと感じてしまいました。

『夜明けを告げるアウローラ』 / 水杉めたせこいあ

題材も展開もライトノベルらしさとはかけ離れた、非常に挑戦的な作品です。
文章力、構成力は非常に高く、新人の技量が上がっている最近でもなかなか見ないレベルです。
主人公から脇役まで、そこに生きて動いているようなりアリティと深みがあり、作者の非凡さを感じさせます。
安易に主人公を正義の側に置かず、等身大の葛藤を描き続ける姿勢は本当に素晴らしいと思います。世界全体から見たら微力であろうとも、主人公たちの戦いが実を結んでいく様は感動的でした。
それだけに、終盤の展開にはやや違和感を覚えます。クライマックスを盛り上げるために、唐突に世界の危機を発生させ、無理やりに主人公たちに世界の命運を背負わせたような、強引さを感じてしまいました。事の重大さの割には展開も解決までの流れもあっさりしすぎているとも思いました。
また、物語序盤がインパクトに乏しく、読者を引き込む力が弱いことも課題であると思います。

(敬称略、順不同)